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楽劇《ハーゲン》としての《神々の黄昏》 [音楽業界]

「ほぼ1日おきにフィリップ・グラス大会」真っ最中、《アクナトン》に続く第二段たる大本命《浜辺のアインシュタイン》見物のため、フランクフルト空港でバルセロナ往き出発を待つラウンジにおります。

昨晩はこのツアーのいくつもあるメインイベントのひとつ、ビュルツブルク劇場での菅尾友演出《神々の黄昏》プレミア見物でありました。
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この日程の中での作業はきついし、日本からも某サンケイ系音楽雑誌編集者H氏、神楽坂&金町のオペラと麺の鬼K准教授、そのお弟子さん、昨年の日生《コシ》で歌ったソプラノさん、などなど、日本から応援団取材陣が多数押し寄せ大盛況だったので、表のメディアへの作文はK先生に御願いしましたので、あたしゃ、ぼーっと見物するだけ…の筈だったんだが、そうもいかないことになりそうなんで、以下、面倒なことなしでサラッと流すだけにします。

この上演、ヴァーグナー愛好家は山のようにいるというビュルツブルクでは初めての《リング》だそうで、ぶっちゃけ、「地方都市のオペラと演劇が一緒になってる劇場が、大都市のお金があって世界中から観光客や愛好家が来る劇場みたいなスターを動員は出来ないが、自分なりの総力を挙げて超大作を作り上げる」というもの。黒いジャケットに溢れたプレミアの客席は、歌手、合唱団、オーケストラに対しては麗しく正しい身びいきとしか言えない暖かさが溢れておりました。これはこれで、そういうもんなんでしょう。

そんな中で、この上演をローカルなものではなく「オペランヴェルト」にも記事が出て評価されるようなドイツ全土のレベルに持ち込む仕事を託されたのが、我らが菅尾友氏だったわけであります。結果から言えば、その目的はしっかり果たされた、ともちゃん、ちゃんと立派に仕事しましたっ!

今回のステージはドイツの劇場の《リング》上演の中でも珍しいのか、はたまた極めて現実的なのか、ひとりの演出家が《ラインの黄金》から順番に出して行くのでもなければ、人気の《ヴァルキューレ》だけ独立して出す、というのでもありませんでした。ドイツの地方都市劇場では流行の、若手演出家に4つの作品を分けて担当させる、というやり方の第一弾。そういう場合、普通なら当然《ラインの黄金》から始まるんでしょうが、何故かいきなり《神々の黄昏》が上演される。予定では、来年の1月に別の演出家さんが《ラインの黄金》を出すとアナウンスされてます。どーゆー順番なんねんっ?

おっと、今、もう月刊誌の締め切りが過ぎてるけどともかくやってくれ、という急ぎの原稿がひとつ入ったので、こんなことをやってられない。で、10分で残りを記すと、「ヴァーグナーが最初に台本を書いた《神々の黄昏》という作品を、四部作ではなく独立された作品としてハーゲンという男を主人公に描く」というもの。ギビフング族は現代のNYだかに住む人々で、神々は博物館の中にいる、という設定です。この説明で判るかぁ、と言われても困るが、この絵をご覧あれ。
https://www.tvmainfranken.de/mediathek/video/helden-walkueren-und-der-kampf-um-den-ring-wagners-goetterdaemmerung-am-mainfranken-theater/?fbclid=IwAR3piL4Tcs_CfTStLVbQ0crZTKAd1UpuOrswjSsb2fAQbRFYEsgw9JkQpsA

菅尾演出らしく、歌っていない歌手もやたらと演技をします。ノルンは博物館キューレーターおオバチャンたちで、最初からお父さんと子どもが出て来て「リング」という絵本を与えられ、博物館に展示された発掘された古代の神々を前に…

で、あれぇ、と思ってると、この子どもが実は子ども時代のハーゲンで、お父さんは勿論2幕頭に出て来るアルベリヒまんま。わああ、とても説明出来んわい、知りたい奴はフランクフルト往き切符を直ぐに買って、ビュルツブルクまで入って下さい!その価値はありますから。

最大の見せ場は、博物館に展示されている神々がみんな動き出して子どもジークフリートとハーゲンと楽しく過ごすパントマイムが展開される「ジークフリートの葬送行進曲」でしょうねぇ。このやり方、コンビチュニーが10年くらい前にヴィーン国立歌劇場に初登場したときに出した《ドン・カルロス》の「エボリの夢」のシーンを思い出したなぁ。あれ、映像になってなかったっけ。

幕切れは、博物館の神々コーナーが倒壊し、動き出したラインの乙女達が瓦礫の中から指輪を見つけ出して、喜びながら消えていく、というもの。いろんな意味にとれる終わり方で、終演後に話をしたみんな違う意味を見出していたのが面白かった。つまり、この演出、人々にそれぞれの想像力を刺激するという意味で、完璧に成功しているってことですわ。無論、こういう演出ですから、ブーも壮大でしたけどねぇ。

やくぺん先生としては、「博物館という歴史的事実を公式に保全するものが消滅し、ギービッヒ家に関わる人々は右往左往に逃げ、ポスト・ファクトの世界に生きていくのだ、という風に思えましたです。同意する人はいなかったけどさ。

この形で4部作を始めれば、それより前の作品は「博物館に入る前の昔の事」ですから、登場人物の見てくれや基本美術は決まってしまっても、中身はどうにでもやれる。その意味でも、一発目としてはとても賢いなぁ、と感心することしきりな夜でありましたとさ。

さて、そろそろ搭乗せねば。あ、雨になったぞ。

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