SSブログ

新スター誕生…か? [演奏家]

「現代音楽」カテゴリーにすべきなのかもしれんけど、今日明日で表の媒体に商売原稿を作成し東京に送らねばならぬテーマなんで、絶対にそこでは触れない演奏家に絞った話を記すので、敢えて「演奏家」カテゴリーにいたしまする。

今回の短いツアーの中でも最も綱渡りな日程を切り抜け(っても、この先まだ何があるか判りゃせん昨今の欧州公共交通情勢でありまするが…)、なんとか無事に作文作業をすべくフランクフルト中央駅から講習会で知られるクロンベルクに向かうDB近郊線で駅構内を抜けて一駅の宿に辿り着き、先程、今回のツアーで実質上唯一の娯楽になってしまいそうな天下のガーディナー御大が手兵を指揮する《ロ短調ミサ》をアルテ・オパーでボーッと拝聴してまいりましたです。御大、真面目な学研派と勝手に思い込んでたんだけど、こんなにショーマンだったのかとちょっとビックリ。聴いてみないと判らんもんだなぁ、いやはや。

さても、日曜月曜とパリからマドリードに移動し見物させていただいた《中国のニクソン》ふたつのヴァージョン、言いたいことはいろいろあるけど、ともかく明日一日で商売原稿にせにゃらなぬので、こんなところには書けません。ちなみに、音楽雑誌ではありませんし、媒体に関してはいろんな事情でどれと言えないので、悪しからず、でありまする。

中身はともかく、逆に音楽雑誌ではない媒体には書けない興味深い話をひとつ。そもそもこのツアー、当初の目的は「金曜日ドルトムント、日曜日パリ、月曜日マドリード、と《中国のニクソン》まるで性格の異なる演出三連発」というのが趣旨だったんだけど、こんなことが起きてしまい、おいおいおいおい、って事になってた。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2023-03-09

劇場側からは何一つ連絡がなく、チケットは捨てることになってしまったばかりか、fixで予約していた宿代12000円也も捨てざる終えない大散財になった。こういうことは起こると諦めるしかないとはいえ、総計2万円に近い支出は貧乏ツアーには痛いなぁ。昨年の秋に国境が開いてから、こういうリスクがやたらと高くなっている感は否めないのだが…まあ、それはまた別の話。

で、このドルトムントのキャンセルですけど、どうやら話はそう簡単ではないようでありましてぇ、なんとなんと、月曜午後にマドリード空港から地下鉄オペラ駅に到着しテアトル・レアルの壁面に張り出された本日プレミアというポスターを眺めたら、こんな告知が。
IMG_3231.JPG
おおお、スペイン王立劇場の音楽監督ボルトン御大がキャンセルで、全然知らん2人の指揮者が代役。で、本日はOlivia Lee-Gundermannなる指揮者さんだそーな。

なんかどっかで目にしたような気もするが、誰じゃ、そいつ?オリビア、って、女性かいな。で、慌てて炎天下でiPhoneの上にいらっしゃるGoogleさんに尋ねてみたら、おおおおお、なんのことはない、去る14日に最終公演がキャンセルになったドルトムントのプロダクションを指揮してた人じゃないの。だから記憶に引っかかってたのかぁ。へー、オリビア・リー=ガンダーマン、韓国人のお姉さんなのね。
https://www.theaterdo.de/ueber-uns/mitarbeiter-innen/biografie/olivia-lee-gundermann/

ってさ、マドリード広報さんからの話では、最初のGPが14日で写真はそこで出来るから、という話だったわけでぇ…つまり、オリビアさんをマドリードのプロダクションに持ってくるためには、やくぺん先生が指揮者の真後ろ一列目ド真ん中に陣取って眺める予定だったドルトムントの千秋楽公演と完全にバッティングじゃないのっ!

まあ、邪推はしたくないけど、イースター明けでギリギリでもうこの日しかあり得ないマドリードのGPのためにドルトムントが指揮者さんをお譲りし、ドルトムント側は「トルコシリア地震チャリティコンサート」に差し替えた、という風に考えるなと言われても、それは無理ってもんじゃいな。うううううむ…

ドルトムントの演出、既に出ているレビューを眺めるに、数年前の菅尾演出が開いたこの作品の「読み替え」をさらに過激に進め、オリジナル台本にない登場人物を出してきてその視点から語り、第3幕では歴史上の実在人物はみんな死んでしまう(この辺りは菅尾演出に近いかな)、というなかなか過激なものだったらしく、パリやマドリードら大劇場の舞台とは相当に異なる小劇場というか、インディーズというか。これはこれで見物したかったなぁ。

もとい、ともかく、この作品をマドリード級のメイジャー劇場でいきなり指揮しろと言われても、まさかパリからデュダメル呼んでくるわけにはいかんし、スペインなら最適任は過去にこの作品の上演で音楽的に最も充実したもののひとつであろう演奏をトロントで聴かせたことがあるパブロ・エラス=カサドという切り札があるだろうけど、今やすっかり売れっ子で何日もスケジュールを確保出来る筈もない。欧州オペラ業界ネットワークの助け合いとしては、他に手はないだろうなぁ…とは思わざるを得ませぬ。はい。

かくて、ともかくきっちりプロダクションを作るところからやってきたわけだから、大劇場での代打登場、お手並み拝見いたしましょうか、と本番を迎えたわけでありました。

んで、結論から言えば、これ、大成功でした。パリのデュダメルの昨今のアダムスは盛んに振ってるけど初期作品はほとんどやってない、大劇場の枠組みに収める重厚な棒とは対照的。良くも悪くもアダムス出世作としての「ミニマル音楽」のリズム処理、なにより大劇場のグランド歴史劇とはまるで違うチープな響きを意図的に際立たせる音色の使い分け、「現代オペラ」としての性格をしっかり前に出した音楽で、適材適所の歌手と共に時代の空気をしっかり伝えてくれる力演となったわけでありまする。いやぁ、これはもう、スター誕生と言っても過言ではない瞬間に立ち会った感がありますな。

終演後、拍手に応えるオリビア様、なんか、すっとしたきれいな韓国のおねーさんなんだけどさ。ともかく、ものすごくこのスコア、勉強したんだろうなぁ。
IMG_E3246.JPG
ドルトムントで無駄にしたと思った2万円くらい、結果的にはこういう形で思いがけず取り戻したというか、面白いことに遭遇させてくださった関係者の皆様へのカンパと思えば安いもんだ、と妙な納得の仕方をしたマドリード王宮前の夜なのであったとさ。

オリビア・リー=ガンダーマン、記憶に値する名前かも。サンフランシスコ戦勝オペラハウス監督のウンソン・キムに並ぶ半島が生んだ新たなスター指揮者の誕生…なのかしら。こちらにオリビア様がドルトムントのオケを振って1幕3場の周恩来のアリアを伴奏してる絵がありますので、ご関心の方はどうぞ。


nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 2

皇帝きむち

中国のニクソン!日本で見たいですね!ここで紹介されている一幕のアリアって 周恩来さん? 間違ってたらごめんなさい
by 皇帝きむち (2023-05-03 12:14) 

Yakupen

皇帝きむち様

ありがとうございます。アホです、直しました。人民大会堂での巨大晩餐会の場面です。

《中国のニクソン》は、歴史的には「ミニマル音楽はバロック音楽と同様にオペラに親和性が高い」という事実を発見し、戦後ダルムシュタット音楽祭型の前衛に引導を渡しミニマルへと創作の主流を変化させるばかりか、今に至るバロックオペラの復活と隆盛のきっかけともなった作品と評価されるべきなんでしょうが…アジア圏では舞台上演はまだ一切成されてません。まあ、中国共産党の歴史観とは些か異なるものですし、やっぱり今でも国慶節に北京で上演されてる革命バレエをパロってるのですから、大陸&香港ではちょっと無理でしょうね。日本では…中国韓国というとパブロフの犬みたいな反応する騒々しい方がいっぱいいる社会ですから(笑)、おっかないのかなぁ。

by Yakupen (2023-05-04 08:25) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。