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やっとベートーヴェン記念シーズンが始まった [演奏家]

かなり面倒な純粋作文原稿を葛飾柿の木の下に籠もってやっていて、北米西海岸が火事になろうが、ニッポン国の政権与党が御上をいじり回そうが、コロナの状況がどうなろうが、得る情報ったらFacebookの表ページにお知り合いが引っ張ってきた見出し程度。柿の木にはムク軍団が顔を出し、そろそろつっつける柿の実があるだぎゃぁ、と騒いでるのは良く判る今日この頃でありまする。

そんな中で、同世代でキャリアも担当編集者さんも似たような同業者が急逝し、このご時世何が出来るわけでもなく、俺はひたすら出来ることをするしかありません、と真面目に目が潰れる程にパソコン画面を眺めていたお陰で、先週末にあったいろんなコンサートについて記す暇がありませんでした。今、デカい原稿のこの瞬間に出来る稿は全て初稿を揃えて、編集側に放り投げたところ。ふううう…

そー、2020-21シーズンは、本来は世界のあちこちで年末に250回目のお誕生日を迎えるベートーヴェン様で盛り上がるのであーる。コロナのお陰で年頭からの延々1年かけてのいろんなイベントがあっちにずれこっちにずれ、御上の要請も今やグダグダのニッポン国自助の業界ももう待っていられず、秋から年末、はたまたその先までのお祭りが始まったようでありまする。なんせ、シーズン冒頭一発に民間団体がナショナル・シアターで《フィデリオ》やっちゃったわけだしさ。号砲一発、でんな。

かくて去る土曜日は、お茶の水の堀を跨ぎ遙々かねやすの向こう、お江戸も外れの小石川近辺まで赴き、弦楽四重奏を聴かせていただいたわけでありまする。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2020-09-10
実質的に藝大フィルの面々に拠るこの団体、「学生時代から仲間が集まってやっていた」とか「大学の頃にセミナーやアカデミーで組んだ」とかいうのではなく、既にあちこちで弦楽四重奏やいろいろな室内楽、オーケストラやらはたまたソロのキャリアを積んでいる若い中堅(なんて言い方があるのか?)が集まったもので、古くはグァルネリQとか、最近ではエッシャーQとか、要は「コンクール世代を終えた連中が集まった団体」ですな。こういう団体は、ぶっちゃけ、個々人のキャリアの方から関心が集まるわけで、それはそれで仕方ないけど、ま、ともかくちゃんと弾けることは確かな方々が集まってるので、安心は安心。とんでもないことになるのではないか、という不安はない。

旗揚げ公演は小さな教会で、演目は作品18と《ラズモフスキー》の共に曲集最初のヘ長調、というもの。休憩込みで1時間半弱、しっかりかかりました。

ともかくベートーヴェン全曲を毎回2曲づつでやっていく、ペースは無理せずに年に2回くらい、という話。選曲からしてよーくわかってるし(ホントはこれに作品135をやってくれると、もの凄くものの判ったプログラムになるんだけど、流石に長すぎるわなぁ)、何が問題かも分かってる。これは演奏者さんたちに直接話したからどーでも良いことだが、個人的にはこの会場のバランスの難しさにどう対処するか(物理的にではなく、音楽的に)。シュパンツィックらが弾いていヴィーン音楽大学近くのラズモフスキー御殿やリヒノフスキー邸サロンの大きさでしょうから、適正規模とはいえ
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モダンな楽器で新奏楽堂で弾いているのとは違うのは当然。それを配慮できないメンツではないのだから、そこまで求めてしまうぞ。

もうひとつ、チクルスを作品18の1で始めるなら、このアレグロ・コン・ブリオの冒頭2小節で「さああああ、壮大な船出だぞぉ」感を示して欲しいわけでありまして、作品18の2でお辞儀するみたいに始まるのでもなければ、作品18の3で典雅に優雅にロココ・サロンっぽい空気を醸し出すのでもない。俺はこの2小節、徹底してモチーフで使いまくるぞ、いいかぁ、驚くなぁ、って始めて欲しいのでありますな。その辺りのジェスチャー、悪く言えばハッタリ感、若いんだからガンガンに示しちゃって欲しいなぁ。

なお、次回は3月、第5番と作品132というなかなか美味しいプロだそうな。

とまあ、勝手なことを言って爺は引き上げた翌日曜日、今度は先月の世界最大規模のオーケストラ・サマーフェスティバルで賑わった六郷川の彼方、川崎に参ります。席はまだまだら市松模様ながら、なんだかすっかりこのやり方にも慣れさせられてしまった様々なホール客席に至るプロセスを踏み、東響さんが聴かせてくれるのは、いかにも記念年らしいWoO 4、楽聖ボン時代の最初のピアノ協奏曲でありまする。ちなみにこれも変ホ長調。この作曲家さん、どんだけフラット3つ好きなんだか。
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https://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=2566&y=2020&m=9
この演奏会、コロナ騒動が始まる前からこの演目で予定されていたのか、寡聞にして知らぬのだが、ま、記念年でもなければフルオーケストラの大ホールでのコンサートで、まるで《皇帝》弾くみたいに弾かれることなんてあり得ないだろう作品。そうそう、このようなものが本気でガッツリ聴けてこそのスペシャル・イヤーなのであーる!

勿論、やくぺん先生ったらライヴで聴くのは初めて。オケパートがなくなっているものの、細かく楽器が指定されたピアノパートがしっかり今に伝わっており、20世紀半ば前からヘス版などオーケストラ補筆演奏譜は普通に出回っていて、YouTubeで音も簡単に聴けます。いくつかの版があるようですが、その辺りの能書きは調べればいくらでも出てくるでしょうから、ご関心の向きはどうぞ。

で、そんなに勉強していったわけではないのだけど、今やってる原稿が1792年にヴィーンに出てきてから作品18を発表するくらいまでの若きベートーヴェンの話なんで、こういうものはしっかり聴かせていただかねばならぬ。んで、拝聴しての感想は…へえ、そうですか、としか言いようがないです。同じ頃に選帝侯領からはラインを遡り黒い森を抜けて遙か彼方の帝都ヴィーンでモーツァルトがやってたようなものとは相当に違う。エリカ街道伝わって海の向こう英都からの響きとかの方がするのかな、って。とにもかくにも、「歴史的な情報に拠る演奏」とか「オーセンティック楽器での再現」なんてやり方がこれ以上に似合う楽譜もないんでないかい、と思った次第。ともかく鍵盤から出る音の響きがモダンなスタインウェイ・コンサート・グランドでは立派過ぎる感否めず。ペダルなんかも「ホントにそーなのかぁ」と感じてしまうところも多々あり。オケに関しては、フルートを使ったのはボン宮廷楽団の都合だったのか、それにしてもホントにクラリネットというのはこの頃のオーケストラとすれば音色的に凄い発明だったのだなぁ、と今更ながらに感じたり(使われてないから、そう感じた)。

こういうの一種の流行病なんだろうなぁ、と自嘲しつつ、ヘス版じゃない今時のオランダ辺りの古楽系団体はどういう再現をおるのじゃろ、と思わざるを得ないのであった。演奏して下さった皆様、企画した方々、ありがとうございましたです。勉強になりました。

そんなこんな、いかにも記念年らしい新帝都の週末を過ごし、コロナのことなど忘れかけてしまいそうになっておりましたとさ。

なお、弦楽四重奏新団体を立ち上げたセカンドの福崎氏、11月にこんなもの凄い記念年イベントをします。時節柄宣伝して良いのか良く判らないけど、まあ、いいんでしょう。
https://www.facebook.com/photo?fbid=3164183750296186&set=a.229320470449210
半分くらい行く気になってるのだが、どうなることやら。この頃は葵トリオが帰国し、日本ツアーをしているそうなんでなぁ。ま、ピアノ三重奏はコロナお籠もり前にギリギリセーフで全曲聴けたから、やっぱりヴァイオリン・ソナタ優先かな。うん、なかなか記念年っぽい発言だわい。

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