SSブログ

悪いのはキースじゃなくてリヒャルト君だと思います! [演奏家]

引っ越し騒動の真っ最中、こういうものを見物に行って参りました。
IMG_9981.JPG
ホントに久々、昨年は一度もやってないんじゃないかって、「感想になってない感想」ですぅ。

ま、一言で言って、「余りにまともだったんでビックリ」であります。

世間の人はどうだか知らんし、世間がどういう評価をしているかなんぞ関心も無いけど、少なくともやくぺん先生にとって、《タンホイザー》という作品はヴァーグナーの普通に上演されて何種類もの演出を目にしてきている舞台作品の中では、最も始末に負えない難物。ぶっちゃけ、《オランダ人》と《タンホイザー》は若いリヒャルトくんの強引なまでのパワーが炸裂している音楽はなんとでも格好付いちゃうけど、話は真面目に考え始めると何が何だかよー判らぬ。納得行くとか行かないとか以前、バタバタと終わるけど、あれってつまりなんだったの、って感は否めない。「現代的なリアリティ」という言い方をすれば、恐らくは話としては遙かに荒唐無稽な《リング》にだっていくらでも多層的な意味が見いだせるものの、このヴィーナスの国と東西独国境辺りの田舎のお城での歌合戦、それに遙かローマの滅茶無慈悲な教皇様のお話ったら、どこにどう「リアリティ」を感じれば良いのやら?ホントに始末に困るお話なのが正直なところ。

本日の二期会さんの舞台、このカンパニーが盛んに組んでいるストラスブールの劇場、フランスの筑波大学みたいなものがありEUの議会がある知的レベルはやたらと高い場所だけど、ハコとしての規模は上野よりも遙かに小さな舞台のために随分前にキース・ウォーナーが作ったプロダクションで、今回はコロナで外国人歌手は一切無し、ウォーナー御大は来られず助手が来て本人はリモートで参加、という作り方だそうな。ま、ストラスブールと同規模のフランクフルトの劇場で散々この作品をやってるヴァイグレ御大がニッポン長逗留の最後に指揮台に立っているわけで、音楽的には破綻のしようもない。数日前の公演では「歴史的な大事故クラス」の歌手陣だったとの噂も飛び交ってましたが、本日はそこまで酷いことはなく、何も知らずに舞台に接すれば、「ふらりと入ったドイツのそこそこの規模の都市の市立劇場で、年期は入ってる歌手や合唱団はちゃんと判ってる舞台で、歌手は座付きの人達ばかり」って舞台を眺めたみたいな感じ、でありまする。

なによりも感心したのは、第2幕の歌合戦に舞台があって、客席があって、その間を歌手達が行き来して客席巻き込んですったもんだ繰り広げる、ってプロセスがきちんと判るように描かれていたこと。ちゃんと整理が出来てない、歌手が勝手にやってるだけの舞台を散々観させられる場面ですからねぇ。正直、この歌合戦場面で舞台が設営されているのを眺めたのって、初めてですわ。所謂「お城の大広間」でやるのが当たり前ですから、エリザベートが「うぁお、ホール万歳!」って歌うのが妙に納得いったりして。他の奴が歌ってるとたまらなくなって突っ込んでしまう性格の悪い、ってか、ニンゲンが全く出来てない失礼極まるタンホイザーくんの無茶苦茶さがよーく判る。これじゃみんなが怒っても仕方ない、ってね。

問題は、最後の救済の部分で、序曲のときから見えていた巨大なオブジェの上からぶら下がったエリザベートの遺体に向けタンホイザーがよじ昇っていく、って終わり方。あれはなんじゃ、そもそもなんでヴィーナスは上手のソファに転がってるんじゃ、なんなんねん?

まあ、どう考えても「なにがなんだか良く判らない」って終わり方としか言いようがない。でも、やくぺん先生とすれば、この終わらせ方には、「だってこの作品だもんね、しょーがないじゃん」と納得してしまいしたです。はい。ウォルフラムがノンビリ夕方の星を歌ったり、タンホイザーが苦労話から自暴自棄になってる裏で、さっさとエリザベートが自殺しちゃってるところをどうやって描くかは、エグい舞台を出す今時の演出家さんたちならば腕の見せ所になるわけだが、キース御大はその辺り、なんにもしない。だって、何かしたくても、リヒャルトがどうすれば良いかのアイデアをなーんにも出してくれてないんだもんさ。やりよーがないじゃないのよ。

その意味では、この作品の最後の訳のわからなさをそのまんままともに示した、さあ、リヒャルトはこういう風にして話に決着が付いたっていってるんだけど、俺に出来るのはここまでです、皆さんどーかね、って潔さ。演出としては、非常に「納得のいく」ものではありました。作品としては…納得なんていくわけないだろーにっ!

1,2幕で上の方でいろいろ人が動いていたり、ちょろちょろ少年が出てきてたり、キース御大、なんかいろいろやろうとしていたけど、ま、それはそれ。そこを突っ込みたい奴は突っ込んでくれ、ってかね。

そんなこんな、2月《タンホイザー》、3月《ローエングリン》と《ヴァルキューレ》、4月には《パルシファル》と、コロナ禍の中にありながら謎のヴァーグナー祭りになってるニッポン列島、初っぱなを飾るに相応しい、久しぶりに二期会さんが見せてくれた極めてまともな舞台でありましたとさ。関係者の皆様、お疲れ様でした。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽