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近衛の曾孫が英都を制す! [弦楽四重奏]

今を去ること40余年の昔、未だこの地上にはソヴィエト連邦とワルシャワ条約機構があり、世界のエリート音楽学校はソリストとオーケストラ団員育成がメインで「弦楽四重奏のコース」なんてものがあるのはマンハッタンはジュリアード、ニューヘイヴンはイェール、ライン川畔はケルンのアマデウス教室、はたまたシュトゥットガルトのメロス教室くらいだった頃、沈み往くロイヤル・ネイビーの横須賀か呉か、空母アーク・ロイヤルなんぞの母港ポーツマスの偉いさんが町興しになんかやりたいと天下のユーディ卿に相談に行ったところ、翁ったら何をとち狂ったか「弦楽四重奏はまだ世界にまともな国際コンクールがない」と言い出し、ことの重大さを判ってない軍港の偉いさんはあっさりああそうですか、ってことになって始まった、実質上世界最古の弦楽四重奏に科目限定した真の国際大会たるポーツマス国際弦楽四重奏コンクール、「音楽は世界の普遍言語」と信じる翁の眼目通り、こんなところで弦楽四重奏なんてやってるのかぁ、というような世界の田舎からも参加団体を集め、壁の向こうハンガリーの逸材タカーチュQやら、優勝ではなかったものの翁大プッシュの上海Qやらの才能を発掘。

軍港街が流石に運営が厳しいと白旗を揚げるや、ユーディ卿とその執事があれこれ手を回し、英都のど真ん中、シティのスポンサーを取り付けて、再開発なったバービカンセンターの南隣、ロンドン城壁の直ぐ外の帝都中央商工会議所集会所みたいな場所に居を移す。ニッポンで言えば大手町みたいなこの地球上のどの場所からも来られるアクセスの良さもあり、一次予選開幕時点で2ダースを超える世界中からの団体が押し寄せる盛況ぶり、口の悪い英都の評論家共は「あの大会はユーディ卿の趣味で1次はトンデモな奴らまでステージに挙げるから、セミファイナル以前は聴きに行く価値なし」なんて酷いことをどーどーと公言する程の盛況ぶり。正にユーディ卿が目指した「弦楽四重奏は世界の音楽言語」という夢を実現する大会となり、ついでに遙か極東の島国から相談に行った大阪は讀賣テレビ系のエラい人達に「室内楽のコンクールをやりなさい」などとアドヴァイスをし、その結果ぁ…

大英帝国の大会は、会場を英都に移してからは、東大美学系評論家先生らの猛アピールでスメタナQが異常な人気だった日本を例外に殆ど知られていなかったチェコ系団体の正統的継承者ヴィーハンQを発掘、余りに独特な英国の弦楽四重奏趣味を排したスーパー軍団ヴェリンジャーQを英国初の優勝団体にしたり、2022年春の段階で世界の弦楽四重奏番付でエベーヌQと共に横綱を張るベルチャQをしっかり落としたり、出来上がった団体を全て討ち死にさせてピカピカのカザルスQを勝たせたり、なかなかの大暴れぶり。今世紀になりユーディ卿逝き経済凋落著しいシティが支えられなくなるや、あれよあれよとRAMとやり手のウィグモアホール現総裁が引き取ることになって、10年代からは名称も「ウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクール」になって…

ふううう、疲れたぁ。

ま、ってな経緯のロンドン大会、本来ならば昨年開催される筈だった大会の本選が、日本時間本日早朝に行われましたです。あとはこちらをご覧あれ。3時間19分とありますが、20分の休憩やら転換やらを省けば、ベートーヴェンの作品131挟んでラズモ3番ふたつ、それに総裁が満面の笑みで狭いステージ上密にしてアナウンスする結果発表まで含め実質2時間ちょいくらい、春の午後のノンビリしたながら視聴には丁度良い長さですから、お暇な方も、そうでない方も、是非ともご覧あれ。ドーネーションを迫られても、知りません、といえばいいんですからご安心を。


ファイナリストは、欧州各国の学生がシュミット先生のところで学んでる拡大EU団体アデルフィ、上と下が同じ姓のアルテミス門下のレオンコロ、それに遙々カンガルーの大陸からドイツに出てきてミュラーやらオリーやらのところで勉強しているアフィニティ、という2010年代末からのドイツ語圏弦楽四重奏の基本的な文法に則って同じ土俵でやってる若手ばかり。この顔ぶれを眺める限り、ユーディ・メニューイン卿の理想とは随分と違った、まるでドイツ系音大弦楽四重奏クラスの卒業試験か、って感じも否めんですな。ま、総裁が結果発表の最初に「コロナ禍などでいくつかの団体が来られなくて残念…」と言ってるように、パンデミック未だ収まらずもうしょうが無いから日常が戻ったことにしよう、ってときに150年ぶりの大国の隣国武力侵攻による併合目的の戦争などというアナクロニズムなことまで起きてしまっている戦時下、英都に来られたのは欧州と北米を拠点にしている連中8団体しかなかったとなれば、こうなるのも仕方ないですな。

んで、結果は…

※1位:レオンコロQ
※2位:アデルフィQ
※3位:アフィニティQ

なお、ドイツでしっかり勉強してくださいジュネス・ミュージック賞はペリア、ファイナルに行けなかったなかでいちばんだったで賞はリセス(ミロのところの子達なのかな)、エステルハージー賞はアデルフィとレオンコロ、ブリテン・ピアーズ賞もレオンコロ、ハイドン賞、新作賞、19世紀賞などなど全部レオンコロ、でありましたぁ。ちなみに総点積み上げ方式だったそうな。

ロンドン名物の英国趣味団体がまるでなかったようだし、なによりもやくぺん先生が唯一まともに音を聴いたことがあり期待していたフランスの御家族弦楽四重奏チャリック・ファミリーが早々に蹴られてしまい、ぶっちゃけ、その時点で「多様な弦楽四重奏の価値を審査員連中がどう評価するか」という関心がなくなってしまったことは確かで…隠居宣言した身を引っ張り出し数十万円の航空券代と英都に蔓延するコロナの恐怖を乗り越えて行かなくても良かった試合となったのは、ちょっとばかり有り難い。どうもハワイ連中も行ってないみたいだし、ま、大阪大会の若き新チーフ・プロデューサーが南回りで24時間かけて頑張って行って下さっているので、爺は安心じゃわい。

さても、こちらが優勝したレオンコロQの公式ページ。まだドイツ語しかないけど、ちゃんとしてるなぁ。日本語まで作ろうとしているのは、当然と言えば当然かな。それにしてもこの背景写真、テーゲル辺りの倉庫かなんかかしら。
https://www.impresariat-simmenauer.de/en/artists/
なんとなんと、既にジメナウアーの若手枠で契約しているらしいぞ。新社長になってちょっと経営方針が変わったみたいとはいえ、不動の長老アーヴィン軍団やエベーヌ&ベルチャの現役最強両横綱以下、相変わらずの「欧州弦楽四重奏の価値を決めるのは我が社だ」ってラインナップではあるものの、些か若手偏重のアンバランスさも感じるロースターではありますねぇ。
https://www.impresariat-simmenauer.de/en/artists/

正直、10年代に入ってから些か迷走気味という感も否めなかったロンドン大会、顔ぶれがはっきりしていたこともあるのでしょうが、久しぶりに順当な結果、という感じ。ニッポンでは「あの近衛秀麿の曾孫がロンドンの難関コンクールで優勝!」という文字がメディアに躍るか、ちょっと楽しみですな。

この2年分のコンクールがギュウ詰めになっているこの春から来年、来月にはボルドー、秋にはバンフとミュンヘンARDが同時開催、そして来年はいよいよ大阪とメルボルン、独奏大会と違ってコロナ禍の練習がちゃんとやれたか判らぬ室内楽、ましてやロシア国籍のメンバーを欠くことになりそうな国際情勢となると、果たして各コンクール、水準を維持出来るのか、些か心配にならざるを得ないけど…ま、こういうときもある、と割り切るしかないんでしょうねぇ。

とはいえ、レオンコロはマネージャーがミュンヘンARD参加を薦めないだろうから、秋のミュンヘンでの国際コンクール見物復帰を考えていたやくぺん先生としては、ちょっとうううううむだなぁ…

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ファイナリストは正統派揃い [弦楽四重奏]

朝起きたら、ウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクールのファイナリストが発表されてました。ホール公式Facebookのリリースをコピペ。

2022 Wigmore Hall International String Quartet Competition
The finalists are: the Adelphi Quartet, Affinity Quartet & Leonkoro Quartet
[TV] Join us online tomorrow, Sunday 10 April at 6PM to watch the Final!

うううむ、今世紀の独系メインストリームの教育を受けてきた連中ばかりを並べて、あとは力勝負、って感じのメンツだなぁ。

ま、いろいろ思うところはありますが(ってか、Aで始まる団体はライヴで聴いたことがないので、思うだけ)、なるほどコロナ禍を抜けやっと非常時解除となった(?)欧州戦時下の大会は、こういう感じなのか、という感想ですな。昔の一次予選参加団体が2ダース以上もあったメニューイン総裁時代のロンドン大会といえば、ロシアソ連系、東欧系などの参加がごっそりあって、「多彩な文化での弦楽四重奏のあり方を垣間見させるイベント」という感じだったのだが、欧州中央のメインストリーム正統派にお墨付きを与える、というキャラの大会になったのは名称変更故だけではないのでしょうねぇ。

なんであれ、とてもライヴで視るのは不可能な時間のファイナルはこちら。あたしゃライヴ参加は棄権します。とにもかくにも、ぐぁんばれレオンコロ!
https://wigmore-hall.org.uk/watch-listen/live-stream

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ロンドン大会セミファイナリスト決定 [弦楽四重奏]

日本時間の昨晩深夜、現在開催中のロンドン国際弦楽四重奏コンクールあらためウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクールの、セミファイナリストが出ました。昨今のコンクール、招聘する団体は極力減らし、予選ラウンドと本選のみで、来て貰った団体には予選ラウンドでできる限りたくさん演奏して貰う、というやり方がメインになってきてるんだけど、ここロンドン大会は、昔から審査員がいない市内アウトリーチみたいなところで弾くことはあるが、大会として演奏する数はそれほど多くない、という伝統的なやり方を踏襲してますね。

んで、本日日本時間の10時からネットのライブ中継があるセミファイナルに進出したのは、以下。

現地時間午後2時開始ラウンド:Ulysses Quartet, Malion Quartet, Leonkoro Quartet
現地時間午後7時半開始ラウンド:Adelphi Quartet, Risus Quartet, Affinity Quartet

あれっ、あの団体がいないじゃないかぁ、とか思っちゃうけど、ま、これが我らがパシフィカQのシミン以下、カザルスQのジョナサン、ドーリックQの大阪の頃にはいなかったヴィオラさん、大阪にも来た元ベルチャQセカンドのラウラ、そしてイェルサレムQのチェロ氏らが出した現時点での結論ということ。

なんと言っても、近衛家の血がヴィオラで響くレオンコスQの健闘っぷりが、ニッポンのメディアの関心になるのでしょうね。さても、明日のファイナルに行けるのはこの半分。どうなることやら。現地2時の部の最初は、横浜市民ならお馴染みの連中ですから、そこくらいは聞いてみてあげて下さいな。


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ロンドン大会やってます [弦楽四重奏]

なんだかバタバタしている間に、いつの間にか(ってか、ちゃんとフォローしてないこっちが悪いんだけど)ロンドン国際弦楽四重奏コンクール、あらため、ウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクールが始まってます。もう5日からやってて、本日で最初のラウンドもオシマイ、明日明後日でセミファイナル、ファイナル、というところまで来てます。

申し訳ないが、もう顔ぶれ見てもチャリックが勝てるか…くらいしか関心が持てない、ってか、出てきている連中がもう全然判らん顔ぶれで、知ってるのは審査員ばかりという一世代前の爺状態。現地で眺めればともかく、これじゃいくらライブストリームやってくれるといっても必要な脳内補正が殆ど不可能で、あーそーですかぁ、としか言い様がないです。これが本日までの日程。
https://wigmore-hall.org.uk/competitions/string-quartet-competition/658-whisqc2022-schedule-for-website/file

幸いにも、大阪国際室内楽コンクールの若きチーフ・プロデューサー氏が遙々南回りで英都前24時間かけ到着、本日からのセッションはあの密回避ほぼ不可能な会場にギュウ詰めになってファイナルまで現場で眺めて来てくれるというので、ま、結果がどうあれどんなもんだったか、ある程度は判るだろうが…隔靴掻痒というか、すっかり遠い話になってしまったなぁ。

とにもかくにも、各団体がハイドンとモーツァルトをやってくれてるんで、それなりにどんなもんかは判るでしょ。

というわけで、本日のセッションは上の動画でしっかり視られます。横浜方面ではT先生プッシュでそこそこ知られた名前の連中が出てますよ。ちなみに、そろそろ明日のセミファイナルで弾ける連中の名前が出るはずなのだが、結果発表はライブストリームやらんそうな。ま、それはそれで清々しいぞ。

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大村の教会に松原節が響く宵 [たびの空]

長崎県の空の玄関、浅い大村湾に築かれた日本初の人口島空港から長ぁい橋を渡り、かつての空港が海自鷹基地とショッピングモールになってる横を抜け、長崎新幹線開業にノー文句で沸く大村市内は大村線駅前でバスを降りると、なんだかどっかで知ってるような街の佇まい。あ、そーか、駅前に昔は栄えていた大きなデパート風ビルが使用中止で廃墟になり(どうやら大村バスセンターだったらしい)、駅前広場右手向こうの方に我が軍のマシン飛蝗がグルグルまわってる騒音が響き、姿がちっちゃく見える、その向こうに民間機が降りていく…これって、完全に木更津駅前じゃんかぁ。

ガランとした駅前からもはっきり見える駅前ホテルに向けてズルズル荷物引っ張って歩き、とにもかくにもチェックイン。フロントの素敵な長崎弁のべっぴんさんに、Googleマップさんに拠れば海側の部屋からなら見えるはずの本日の目的地たる教会への行き方を訊ねれば、ああ幼稚園ですね、とかえって面倒な裏道を教えてくれそうになるんで、なんとかなりますと慌てて話を引っ込めるのであったとさ。

用意して貰った湾に向いた西日が入る側の部屋、バッサリとは開かない今時の窓をギリギリまで開いてすっかり桜も終わりかけのキューシュー島北西の春の空気を入れると、一緒に湾の方から海自鷹くんのお馴染みのキュンキュン声も流れ込んでくる。佐世保呉派遣部隊の海自鷹くん、新年度最初の月曜の午後から、遙か東国の相模国は甘利事務所上空辺りでぐるんぐるんやってるのと同パターンの訓練飛行を繰り返してら。
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真面目なんだよなぁ、この島の闘う公務員さんたちって…

※※※

ここ大村には、どういうわけか知らんけど、長崎県で唯一のプロ合奏団たる長崎Omura室内合奏団が存在し、認定NPO法人として活動しております。オケ連は準加盟だったかな。
https://www.omurace.or.jp/
いろんな事情があるんでしょう、ゲストのリーダーというか、指導者として招かれているのが、我らが上野の杜の室内楽科主任、松原かっちゃんなのであります。本日は、松原氏率いる室内楽の演奏会が市内の教会で開催されるのでありまする。コロナ禍で全く開催出来ず、2年ぶりとのこと。
IMG_0064.jpg
極めて真っ当な弦楽四重奏の演奏会で、頭に松原氏が座って、いろいろ仕掛ける。今回は松原氏がセカンドになったり、ヴィオラを持ったり、ということはない。聴けば、練習というかここに至るセッションは3日間とのことで、参加出来る弦楽器メンバーは限られているとはいえ、ま、こういう形になるのでしょう。1週間とかをひとつの楽譜でいろいろ弄る、というのならいろんなこともあるんでしょうけど。

とはいえ、松原氏の室内楽をご存じの方はご想像がつくように、普通の意味で「合わせる練習」とか「合奏の精度を上げる」というのが目的ではありません。バッハやらショスタコやらメンデルスゾーンの楽譜に、どのように対して行くか。合わないなら強引に合わせるのではなく、合わないのになんか意味があるのだろう、と考えてそれを探っていく、というセッションが展開されたのでしょう(無論、それを見せようなんて下世話なもんではありません)。ですから、極端なことを言えば、本日披露されたのは「練習の結果の完成品」ではなく、「何日か、何度かのセッションを重ねてきたメンバーが本日この瞬間に何をやるか」というもの。端正に纏め上げたアンサンブル、とかとは無縁の、この瞬間に4人なり5人がなにを感じるか、それがどこまでちゃんと音になるか、という音楽が繰り広げられたわけでります。

幸いにも、会場となったこの大村の街の真ん中の教会、なんてこと無い空間だけど、とても響きが良く、それぞれがやりたいことが良く判る。こういう場所があって、ホントにいいなぁ。今時の新帝都の都心なんかには、案外、こういうさりげなくちゃんとした教会空間って、ないんですよねぇ。

ちなみに、この合奏団の理事をなさっているのは、地元出身のこの方。あ、なーるほど、そーゆーことね、とお思いの方もいらっしゃるでしょ。
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https://www.amazon.co.jp/%E6%9D%91%E5%B6%8B%E5%AF%BF%E6%B7%B1%E5%AD%90%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%99%82%E4%BB%A3-%E6%B1%9F%E5%8F%A3-%E6%BA%80/dp/4904561430
皆さん、お元気ですかぁ、って。

春の宵、長くはないけど熱い演奏が終わって外に出れば、教会堂の向こうに新月も近いイースター前の月が、大村湾の方へと沈んでいく。
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いろんな場所で、いろんな音楽が鳴っている。まだまだ、眺めて歩かにゃならん場所は、いっぱいあるぞ、このキューシュー島。

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なるほどこういうものなのか… [音楽業界]

ギリギリの締め切り原稿が終わって、今は編集者さんがギリギリになってる瞬間なんで、この合間にたまには中身の話をしないとね。

今回の10日程の新帝都滞在、実質上「東京春音楽祭」見物のための上京になってるわけで、なんと1週間で5公演見物という完全な田舎者日程でありまする。飛行船シアター拝見と並び、ハイライトのひとつが昨晩文化会館大ホールで宿望の日本初演(だろーが、作品の性格上、よく判らんとのこと)となったブリテン《ノアの洪水》演奏会形式上演でありました。
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この作品、ブリテンの伝記やらではオールドバラ音楽祭初期の運営を巡る話で必ず出てくる、「音楽祭に懐疑的な田舎の小さな町の地元住民との融和、というか、地域対策というか、忖度というか、のために、ブリテンがオペラ作家としてのありったけの能力をぶち込んで創り上げたアマチュア参加型教育オペラの最初期の成功例」という話ばかりが有名。まあ、内容が内容ですから、特に中身を巡って深い議論をしようという方もおらず、一種の「文献でばかり有名な作品」でありますな。録音も、デッカのブリテン自作自演作の中にあったっけ、ってくらいの感じ。

そんな幻の作品が、コロナ禍ということでなんのかんの2年も上演延期になっちゃって、昨年なんぞプレ演奏会みたいな、リコーダーパートやらだけを紹介する不思議な(半端な、と言うべきか)演奏会なんぞまであっちゃったりして、不必要なまでに期待盛り上がる中でこの日本初演の時を迎えることになったわけでありまする。ま、だからって世間の話題になってるわけでもないけどさ。

正直、この作品、昔からある作曲者指揮だか監修だかの録音が、今はデッカのブリテンがジャケットに写ってるオーセンティック録音シリーズに入っている筈で
https://www.hmv.co.jp/en/artist_%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%B3%EF%BC%881913-1976%EF%BC%89_000000000019655/item_Noye-s-Fludde-Del-Mar-Goldenvanity-Britten_46655
石武オフィスにいけばまだ開いてない段ボールの中にあるっけか、という感じ。ちゃんと聴いた記憶もないなぁ…という有様。だからこそ、この機会にいちどきちんと聴かせていただいて、なんかよくわからん作品がどんなもんか判らせていただけるであろー、と大いに期待して文化会館大ホールに座ったわけでありまする。って、マジ、ギリギリまで小ホールだと思ってた、だって田舎の教会のために作曲した作品だもんね。

で、結論から言えばぁ…なるほど、こーゆーもんですか、というもんでありましたです。作品がどういうもんか、恐らくこの数日はネットの上で「ブリテン ノアの洪水」とググればいくらでも出てくるでしょうから、そちらをご覧あれ。良くも悪くも「オペラ」という名前で呼ばれる創作のひとつの典型例であることは確かで、21世紀になってから大流行の「公共ホールが公金を使って行う地元住民やアマチュア音楽家を巻き込んだワークショップ」の総まとめイベントには最適な作品じゃあないかい、ってことはよーく判ったです。終演後、文化会館の広報氏に「これ、東京春さんみたいな鑑賞型公演じゃなくて、おたくのミュージック・ワークショップのためにブリテンがわざわざ作ってくれたようなもんじゃないの」と言ったら、誠にその通り、と、いろいろ考えてるみたいでしたね。

ただ、問題があるとすればやはりテーマそのもので、「被造」と「神の怒り」のテーマが感覚として常識的にあるキリスト教文化圏ならいいけど、自然は勝手にあるものでニンゲンもなんとなくぽわわんと出てきたもんだ、ってなノンビリした文化圏では、根本的な違和感は否めないだろーなぁ。ヴァイルの教育劇ほどは毒はない素材、例えば猿蟹合戦とか、桃太郎の鬼退治とか、そんなauの昔話キャラクターCMシリーズみたいな普遍性がある素材で、同じような作品が作れれば…と思ってしまうのでもあったとさ。

音楽的にはやっぱり昨年紹介されたリコーダーアンサンブルやら、カップぶら下げた打楽器やらが聴きものなんでしょう。とはいえ、昨日の再現に限れば、あの創造神のナレーション、まるでショッカーのラスボスみたいだぁ、と爆笑だったのは…どうなんでしょうかねぇ。ひとつの解釈ではあるのでしょうが。なんせ、被造の神が人前に姿を見せるときには、シェーンベルクっぽい藪の中とか、マーラー3番終楽章の弱音のトロンボーンとか、チラ見せというのが本来なんだろーしさ。

恐らくはもう生涯で二度とライヴで接しないだろうし、上演があると知っても「ああそうですか」でパスしそうな作品、なるほどこういうものか、と納得させていただけただけで誠に有り難い上演でした。願わくば、やっぱりもう少し適正規模な会場で接してみたかったけどさ。

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シューベルト弦楽五重奏をコントラバスで弾きます←注:エイプリル・フールではない! [演奏家]

ご報告が遅れ、卯月初日ってことで世間はエイプリル・フールのネタと思ってしまわないか心配なんだけど、創刊以来「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」をモットーとする当電子壁新聞の4月1日なんだから、無論、書いてあることはホントです。なんとなんと、天下の名曲、妙なる響きの天国的な長さに春の午後の魂も溶けてくよなフランツ・シューベルト作曲弦楽五重奏曲ハ長調、明日と明後日の午後、チェロ一本をコントラバスに代えて演奏されます。こちら。
https://i-amabile.com/concert/hibiki_string_quintet220403
https://www.nishinippon.co.jp/kyushu_event/11520/
んで、こんな音らしい。

どうも天下の西日本新聞の記者さん、事の重大さを判ってらっしゃらないんじゃないかとしか思えぬさりげない記述で、延々と説教してやるからそこに座れ、って気になっちゃうぞ。だってあなた、あの曲をコントラバスですよ、コントラバス!そりゃね、実は滅茶苦茶音域広いヴィオール系の楽器だから理屈としてはやれないことはないんだろーが、例えばゲーリー・カーとか、こんなことやってるんでしょうかね?

こんなトンデモを考えるのは、当然、頭に座る我らが福崎氏であります。北九州は響ホール合奏団のコンマスを務めるばかりか、上野の藝大オケのメンバーとしてきっちりお仕事をこなしつつ、一昨年のベートーヴェン生誕250年では世界でもそんなことやった奴はどれだけいるんだ、って呆れかえる「1日でベートーヴェンのヴァイオリンとピアノの二重奏ソナタ全曲演奏」なんてことを地元黒崎で敢行、北極回りで羽田からフランクフルトまで行けるくらいの時間を付き合ったこっちがもうクタクタになってもーた。

無論、無謀な突撃ではなくちゃんと勝算はあってのことでしょう。どうやらコントラバス・パートは若干手を入れる部分もあるそうです。演奏するのも、この人なら大丈夫、と見込んだ逸材のお嬢さんあってのことらしいし。

うううむ、本来ならばもう四の五の言わず九州北に行かにゃならんのだが…残念なことに日曜日は上野でながああああい1日を過ごす先約があり、そっちにお付き合いせにゃならん。

九州北部、ホンシュウ島西端辺りにお住まいのシューベルト好きよ、さあ、週末は戸畑か福岡に結集せよ!やくぺん先生も、楽屋への差し入れだけはお願いしたぞ、がんばれえええええ!

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