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なるほどこういうものなのか… [音楽業界]

ギリギリの締め切り原稿が終わって、今は編集者さんがギリギリになってる瞬間なんで、この合間にたまには中身の話をしないとね。

今回の10日程の新帝都滞在、実質上「東京春音楽祭」見物のための上京になってるわけで、なんと1週間で5公演見物という完全な田舎者日程でありまする。飛行船シアター拝見と並び、ハイライトのひとつが昨晩文化会館大ホールで宿望の日本初演(だろーが、作品の性格上、よく判らんとのこと)となったブリテン《ノアの洪水》演奏会形式上演でありました。
IMG_9032.jpg

この作品、ブリテンの伝記やらではオールドバラ音楽祭初期の運営を巡る話で必ず出てくる、「音楽祭に懐疑的な田舎の小さな町の地元住民との融和、というか、地域対策というか、忖度というか、のために、ブリテンがオペラ作家としてのありったけの能力をぶち込んで創り上げたアマチュア参加型教育オペラの最初期の成功例」という話ばかりが有名。まあ、内容が内容ですから、特に中身を巡って深い議論をしようという方もおらず、一種の「文献でばかり有名な作品」でありますな。録音も、デッカのブリテン自作自演作の中にあったっけ、ってくらいの感じ。

そんな幻の作品が、コロナ禍ということでなんのかんの2年も上演延期になっちゃって、昨年なんぞプレ演奏会みたいな、リコーダーパートやらだけを紹介する不思議な(半端な、と言うべきか)演奏会なんぞまであっちゃったりして、不必要なまでに期待盛り上がる中でこの日本初演の時を迎えることになったわけでありまする。ま、だからって世間の話題になってるわけでもないけどさ。

正直、この作品、昔からある作曲者指揮だか監修だかの録音が、今はデッカのブリテンがジャケットに写ってるオーセンティック録音シリーズに入っている筈で
https://www.hmv.co.jp/en/artist_%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%B3%EF%BC%881913-1976%EF%BC%89_000000000019655/item_Noye-s-Fludde-Del-Mar-Goldenvanity-Britten_46655
石武オフィスにいけばまだ開いてない段ボールの中にあるっけか、という感じ。ちゃんと聴いた記憶もないなぁ…という有様。だからこそ、この機会にいちどきちんと聴かせていただいて、なんかよくわからん作品がどんなもんか判らせていただけるであろー、と大いに期待して文化会館大ホールに座ったわけでありまする。って、マジ、ギリギリまで小ホールだと思ってた、だって田舎の教会のために作曲した作品だもんね。

で、結論から言えばぁ…なるほど、こーゆーもんですか、というもんでありましたです。作品がどういうもんか、恐らくこの数日はネットの上で「ブリテン ノアの洪水」とググればいくらでも出てくるでしょうから、そちらをご覧あれ。良くも悪くも「オペラ」という名前で呼ばれる創作のひとつの典型例であることは確かで、21世紀になってから大流行の「公共ホールが公金を使って行う地元住民やアマチュア音楽家を巻き込んだワークショップ」の総まとめイベントには最適な作品じゃあないかい、ってことはよーく判ったです。終演後、文化会館の広報氏に「これ、東京春さんみたいな鑑賞型公演じゃなくて、おたくのミュージック・ワークショップのためにブリテンがわざわざ作ってくれたようなもんじゃないの」と言ったら、誠にその通り、と、いろいろ考えてるみたいでしたね。

ただ、問題があるとすればやはりテーマそのもので、「被造」と「神の怒り」のテーマが感覚として常識的にあるキリスト教文化圏ならいいけど、自然は勝手にあるものでニンゲンもなんとなくぽわわんと出てきたもんだ、ってなノンビリした文化圏では、根本的な違和感は否めないだろーなぁ。ヴァイルの教育劇ほどは毒はない素材、例えば猿蟹合戦とか、桃太郎の鬼退治とか、そんなauの昔話キャラクターCMシリーズみたいな普遍性がある素材で、同じような作品が作れれば…と思ってしまうのでもあったとさ。

音楽的にはやっぱり昨年紹介されたリコーダーアンサンブルやら、カップぶら下げた打楽器やらが聴きものなんでしょう。とはいえ、昨日の再現に限れば、あの創造神のナレーション、まるでショッカーのラスボスみたいだぁ、と爆笑だったのは…どうなんでしょうかねぇ。ひとつの解釈ではあるのでしょうが。なんせ、被造の神が人前に姿を見せるときには、シェーンベルクっぽい藪の中とか、マーラー3番終楽章の弱音のトロンボーンとか、チラ見せというのが本来なんだろーしさ。

恐らくはもう生涯で二度とライヴで接しないだろうし、上演があると知っても「ああそうですか」でパスしそうな作品、なるほどこういうものか、と納得させていただけただけで誠に有り難い上演でした。願わくば、やっぱりもう少し適正規模な会場で接してみたかったけどさ。

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