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木曜午前11時からの《ゴルドベルク変奏曲》 [演奏家]

神奈川は県の名称にもなっている東神奈川、ある世代には懐かしい(って、今でも米軍しっかり居るけど)瑞穂埠頭米軍基地ノースピアのゲートまで駅前の道路を真っ直ぐ海に向けて5分も歩けばたどり着く些か物騒にも思える碌でもない場所に、「横浜市内各区専門ホール設置プロジェクト」としか言いようがない市の文化政策で造られたかなっくホールというヴェニュがあります。隣の「21世紀10年代の弦楽四重奏の聖地」サルビアホールのロケーションとまるで同じ、JR東日本と京急がスピードを競い合うキョーフの路線に挟まれた狭い空間を住宅含む中層の総合ビル(ま、一昔前の言い方をすれば立派な雑居ビル)なんぞで埋めて、その一部分を公共文化施設にする、という奴ですな。
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両駅の二階空間部分からそのまま繋がっている、便利と言えば滅茶苦茶便利な場所です。

このホール、極端なことを言えば横浜市内に山のようにある「公立駅前ホール」なんですけど、これだけ市内に数があればいろんなことをやってやろうという指定管理者やら公共財団やらが出てくるわけで、中にはおっちょこちょいの跳ね上がりのプロデューサーなんぞもおり、やたらと頑張ってるところもある。←あ、これ、最高の褒め言葉ですからね。

かなっくホールもそういう方がいて、音楽だけではなく演劇とか舞踏とか落語とか文化レクチャーなんかまで含めていろんなことをやっていた。その成果が、このラインナップ。ご覧あれ。
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で、上段左隅が、本日の演奏会。こちら。
https://kanack-hall.info/event/2022%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e3%80%80%e3%81%8b%e3%81%aa%e3%81%a3%e3%81%8f%e3%82%af%e3%83%a9%e3%82%b7%e3%83%83%e3%82%af%e9%9f%b3%e6%a5%bd%e9%83%a8%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%81%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%a0/

300席のホールで、入場料はワンコイン500円也。正に公共ホールのやるべきお仕事ですね。数日前にほぼ完売、パツパツ。開場は10時半なんだけど、その前から当然ながらご隠居ばかりの聴衆はもう待っていて
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チケットに振られた番号で呼ばれた順番に自由席のオーディトリアムに入っていく。で、こんなん。
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この客席を前に、佐久間&生野の昴21Q半分と、小澤塾なんぞにもいらしたチェロの奥泉貴圭がコロナ前くらいから始めたという「常設」弦楽トリオが、シトコヴェツキ版《ゴルドベルク変奏曲》をまるっと朝から演奏するわけですわ。

どうやら流れのある企画らしく、ここに来ている横浜はかつての碌でもないベース裏のご隠居連がみんなバッハのマニアだとか、室内楽の滅茶苦茶コアな聴衆だというわけではない。その意味で、感覚的にはお隣の鶴見のホールとは全然違います。恐らく、明日、鶴見のタカーチュQにも行く聴衆は、あくしめ以外はひとりもいないんじゃないかしら。

中身ってば、ともかく12時には終えねばならぬ1時間という縛りがある中で、お喋りやらまで付いているわけで、演奏は抜萃というわけではないけど、30の変奏の中で繰り返しをやったのはポイントになりそうな数曲のみ。良くも悪くもトントンずんずんつるつる進む、とてもじゃないけどこれは寝てる暇も無いぞ、って昼前のお休み音楽でありました。まあ、この状況ではこのくらいのテンポ感(というのかなぁ…)で進んだ方が良いのかしら。

面白いのは、どう聴いても「弦楽三重奏」の音楽だったこと。鍵盤、それもチェンバロという楽器の様々なキャラクターは、特に再現に於いては気にしない。シトコヴェツキ版の楽譜はもう生まれる前からあり、モーツァルトのディヴェルティメントやらシューベルトやらフランセやらの定番弦楽三重奏楽譜と同様の、このジャンルの最も重要なデカい楽譜である、って視点からの再現でありました。うううむ、そういう時代なんだなぁ。

時代なんだなぁ、と感じることといえばもうひとつ、喋りの上手さですね。巧みに喋るというよりも、的確にポイントを掴んだ、ムダのない喋りが出来る。今時の若い演奏家にとって、特にこのようなある種のシチュエーションが前提の演奏会で仕事をきっちり得ていくためには、舞台から直接、それも的確に喋れるコミュ力は不可欠。フランスのアマデオ・モディリアーニQがなんであんなに人気があるのか、正直言えば不思議としか言いようがあいのだが、フランスの業界の人にきけば、奴らはイケメンで喋りが上手だから、という話。なるほどなぁ、と大いに納得したわけですけど、そんな流れはニッポンの業界でもハッキリと見えるようになって来ているなぁ。

次の段階に移行とするなら、やはり音の綺麗さだけど…弦楽トリオでバッハで音を綺麗に、となるともうひとつの高い壁が立ち塞がるわけで、頑張って欲しいものであります。

かなっくホール、来週土曜日はこの団体とヴィブラフォンの鬼才會田瑞樹のコラボがあるんですけど…ゴメン、あたしゃ、かなっくホールから見上げるみなとみらいの向こう、神奈川県民ホールの《浜辺のアインシュタイン》に2日ともいかにゃならんねん。残念だなぁ、ホント、どうしてこういうことがおきるのかなぁ。

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