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札幌のプチ・ヴァインベルク祭り [弦楽四重奏]

当電子壁新聞では未だに表記が定まっていないWeinberg、どうやら日本語では「ヴァインベルク」と書く流れとなったようなので、「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」をモットーとする当無責任私設壁新聞でも時流に乗っ取りヴァインベルクとします。なお、当電子壁新聞記事検索では両方ありますので、ホントに調べたい酔狂な方は「ヴァインベルク」と「ワインベルク」の両方で探してみてちょ。暇があったら統一したいとは思いますが、そんな面倒なことをやる気はしないなぁ…

札幌のキタラホールが14年来招聘しているダネルQが、日本での本拠地たるキタラ小ホールで「プチ・ヴァインベルク生誕百年祭り」を開催してくださいました。
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2日間連続2回の演奏会、数時間前に終わった初日はまずショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲第1番に始まり、ベートーヴェン作品135、それにヴァインベルクの第2番という4楽章作品が3つ並べられます。この団体の隠れ社長ではないかと推察しているバシュメットと並ぶロン毛ヴィオラの巨匠ヴラッド氏立ち話で曰く、「今日は古典的な形式の作品を意図的に集めました。そう、台北でやるチクルスのプログラムと同じ…だったと思うなぁ。」

続く明日の午後は、なんとなんと、どういう背景があったかしらぬがキタラホールがこの演奏会のために委嘱するという大盤振舞をした札幌大谷大学芸術部の先生をなさっている作曲家小山隼平の新作、それにグバイドゥーリナの《バッハの主題による省察》、そして最後はショスタコーヴィチの15番。なんともまぁ、よくまあこんなプログラムをやってくれたもんでありまする。これはもう、どんな貧乏人たれ朝一のLCCで北の大地まで来なければならんじゃないのよ。

ちょっと残念なのは、このプログラムのとんでもなさというか、ものスゴさが広く札幌市民に伝わっていなかったこと。キタラがダネルQのこういう趣旨のプログラムのために新作委嘱し、世界初演するんだから、当然NHK札幌やら道新やらが詰めかけねばならん筈じゃないの。それは明日だ、と言われればそれまでだが、もうちょっと大きく盛り上がってくれてもいいのになぁ…ちなみにこの週末は金曜にオープンした北海道の秋祭り「札幌食の祭典」で市内は大いに盛り上がっており、キタラ館長さんも「七丁目から向こうに屋台がたくさん出てます」と仰ってました。お陰で今日は飛行機も宿も滅茶苦茶高く、今、これを書いている中島公園駅徒歩3分のビジネスホテルは普段の倍以上の値付け。周囲の飯屋にはすすきの方面から流れてきた人々で溢れてます。うううん、キタラとすればそんなんじゃなくてダネル&ヴァインベルク祭りだろーにぃ!

もとい。で、前天皇隠居直前に溜池で開催されたN響&下野御大の「東京プチ・ヴァインベルク祭り」、金沢の連休音楽祭りの中でスルッとやられちゃった「クレメルが祝うプチ・ヴァインベルク祭り」に次ぐ、恐らくは記念年最後の盛り上がり「札幌プチ・ヴァインベルク祭り」でありますが、大いに盛り上がりました。

なんせこの数年で90年代前半世代の中でも一気にメイジャー化しちゃったダネルQ、ショスタコーヴィチのサイクルは何度やったか、ヴァインベルクの全17曲だってチェロのマルコヴィチ様が天下のイザイQが終わって移籍して下さってからでも何度もやってる。今年はパリでやり、世界で初めて全曲演奏を行ったバーミンガムでももう一度やるという。台北でも3年越しの「ベートーヴェン+ショスタコーヴィチ+ヴァインベルク」サイクルがこの11月に終わる。ともかく、やたらと弾いてる連中。
ですから、やああいヴァインベルクってすげーじゃん、ってやっと全曲揃った楽譜を眺め、2番とか6番とか比較的手が付けやすい曲を有り余るパワーとアンサンブルのテクニックにかまけてガンガンに弾きまくる若いバリバリな奴らの音楽とは違い、ショスタコ・アレグロの狂気さ1.5倍みたいなヴァインベルク・アレグロをイケイケゴーゴーで盛り上がって大喝采、という音楽ではない。無論、生理的な盛り上がりはあるに決まってるけど、全体のバランスの中に収まった、猛烈に手に入った再現になっております。

あ、マーク先生の足バタバタパーフォーマンスは健在、ってか、冴え渡っておりまするが、それはもうこの団体のトレードマークみたいなもんだから、苦笑して眺めるしかないわなぁ。この人、立って弾いたら竹澤さんみたいになるんだろーか?

本日のハイライトは、アンコールにありました。まずはマークが「スーパームーヴメント」と言ってチャイコフスキーの《アンダンテ・カンタービレ》楽章を弾く。これはまあ、この流れですから、歌いすぎない、ロシアのベタベタ演歌とはちょっと違う音楽。で、大拍手止まぬ中、まさかのもう1曲。ステージ上のマーク社長に拠れば「ヴァインベルクにはシューベルトみたいに書いたけど放っておく曲がたくさんあり、これも1950年に書かれて、私たちも昨年初めて演奏しました。日本では初めて」だという《即興とロマンス》という小品。このロマンス部分がねぇ、映画音楽なんぞで食っていたヴァインベルクの面目躍如、もう涙が出くらい懐かしい素敵な音楽なんでありますわ。おおお、この病気の見つかった死に損ないの俺にも、まだこんな旋律で感動するなんて純朴な乙女のような心が残っていたのか、と泣きたくなるようなチャーミングな音楽。そう多くはないと言え熱心な札幌の聴衆の心を鷲掴みにし、こんな演奏会では珍しいスタンディング・オーヴェーションをするおばさまでいらっしゃいましたです。

終演後は延々とサイン会。楽器をやっている方と話こんだマークは、その方の楽器を取り上げて弾き始め
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みんなが苦笑を通り越して早く飯食いに行こうぜ、って呆れ顔になるまで引き倒しておりましたです。

ちなみにこの演奏会のキタラ側の担当者の若き日下氏、なんと数年前まで「エクプロジェクト」に加わって下さっていたそうで、いやぁ、撒いた種がこういう形で北の大地で育っているとすれば、死に損ない爺も嬉しいのであるぞよ。うん。

さても、明日の演奏会、まだチケットはあるようですので、皆さん、今から羽田や伊丹に走っていらっしゃい。ただし…台風新帝都直撃みたいなんで、帰れるかわかりませんけどね。

[追記]

今、キタラホール楽屋でマーク・ダネル氏へのインタビューを無事に終えました。相変わらず喋りまくられました。「ヴァインベルクについて」1本です。掲載誌は『音楽の友』誌です。請うご期待。

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