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なぜ野外コンサートをするのか [音楽業界]

昨日は朝から横浜赤煉瓦倉庫の向こうというか、海保基地と大桟橋の間の公園というか、まあそういう本来ならば公共の公園スペースを仕切って開催された野外イベントの取材で朝から晩まで浜風に吹かれておりましたです。
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もう新暦神無月目の前というのに、太平洋高気圧が運んでくる南洋の湿った空気ジャブジャブで、昼間はまるっきり夏のイベント。まるでシンガポールのエスプラネード前で向こうにマーライオン眺めてるみたいな空気の中での開催でありました。最初は台風直撃の可能性もあったのだから、無事に雨も降らずに開催されただけ良かったねぇ、と考えるべき何でしょうなぁ。

自分からすすんでノコノコ出かけるようなイベントではなく、ましてやこの日はドビュッシーQが上野でフィリップ・グラスの《ミシマ》を弾いてくれる予定があり、当然そっちに行くつもりだったのだが、編集者様から「取材に行け」と言うご命令があり、新たに医療費貧乏という状況が発生しどんな仕事でも受けないと生活がまわらない貧乏人へっぽこ売文業者、嫌などと言える筈もなく、しっかりお仕事してきたわけでありまする。って、メモは帰路の京急車内でまとめたけどまだ本編作文はしていないから、何も終わってないんだけどさ。

というわけで、中身に関してはガッツリ商売もの、こんな無責任施設壁新聞に記すわけにはいきません。とはいえ、昨晩、夜も8時を過ぎてステージの撤収が始まっている横でとても仕事熱心で真面目な広報のお嬢さんに「いかがでしたか」と尋ねられ、まるで「じゃあ、本気で喋るから君たちそこに座るよーに」と、所謂「上から目線」振り回しで広報さんと編集者嬢にまくし立てたこと、そのものじゃなくて、その話の前提となってる部分を記しておきましょう。
つまり、この作文、読者対象は昨日のイベントの広報さん1名、強いて言えば一緒に居た編集者女史も含めた2名、ってことなんだけどさ。

話は簡単で、「所謂クラシック音楽、とりわけオーケストラの野外コンサートはなぜ開催される必要があるのか?」という基本的なことでありまする。

一昨日昨日と横浜で開催されたイベント、なにやらイベント好きな横浜市だか神奈川県だか知らぬが、横浜フェスティバル実行委員会という自治体も絡むところが共催に名を連ね、「横浜音祭り」という枠にも収められているようではあるのだけど、基本的にチケット販売屋さんのe+さんが主催のメインに出ている。昨今の「横浜市」の動向を考えると、特別スポンサーになっているGALAXY ENTERTAINMENTってマカオだかベースの中国資本の会社がなんなのか、いろいろと興味深いところがあり、いろいろ勘ぐりたいと思ってるそこの貴方の下心などミエミエでありますがぁ、ま、それはそれ。また別の話、ということで、今はいたしませんっ。ともかく、基本的に民間の商業イベントである、ということです。これ、手に入場パスとなるテープを巻かれて足を踏み入れた会場内にまず掲げられた掲示。ここから先は撮影禁止なんだから、これは撮影しても問題ないんじゃろうて。
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炎天下の野外コンサートで傘禁止とか、なかなかしんどいなぁ。ポンチョ、持ってきてないぞぉ。この湿気じゃ、そんなもん着込んだら死にかけること必至だし。

もとい。主催がどーのこーの、って言い立てても、ああそうですかそれがなにか、とスルーされそうなんだけど…実は「野外のクラシック・オーケストラ・コンサート」としては、非常に珍しい事例なんじゃあないかい。

私たちが普通に知っている、ってか、やくぺん先生が世界のあちこちをウロウロする中で眺めてきたり経験してきた「野外のオーケストラ・コンサート」って、基本的には全て商業イベントではなく、公共イベントなんですわ。それが民間団体の主催するものであっても、実質上、自治体が財政的にも運営にも全面的にバックアップする、極めて公共性の高いイベントなんですね。

例えば、ええと、これはセントラルパークの無料野外オペラ
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2012-06-28
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2012-06-26
バレンボイムがアラブ&パレスチナのユースオケを板門店で振った野外コンサートも、商売もんだったのでこんなネタしかない。
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2011-08-16
メルボルンのオペラ・オーストラリア主催の無料オペラコンサートも記事を探したんだけど、どうやら当電子壁新聞には書いてないのかしら。大植えーちゃんがNYPを振ったセントラルパークの無料野外コンサートは、当電子壁新聞開設前だったようだ。大阪城公園での大フィル野外コンサートも、商売もん作文だったのか、出てきませんね。《ローマの松》だかの音源をまんまアップしちゃった記憶があるんだが、あれはなんだったのか。考えてみれば、昨日のイベントに強いて言えば最も近いタングルウッド音楽祭のシェドのコンサートに行ったのも、もう20世紀終わり頃のことだしなぁ。

あまり過去の記事にはないし、それほどとりあげてもいないんだけど、それなりの数経験はしてきて、取材もしてきている「野外のオーケストラ・コンサート」の最大の目的は「オーケストラやらオペラやら、膨大な公金や個人支援金で運営されている金食い虫の公共インフラを、そんなものに関心のない普通の市民やら納税者やらに知ってもらうこと」です。です。ぶっちゃけ、「消防隊の正月出初め式」とか「軍隊の基地公開、空母搭乗、航空ショー」なんぞと同じです。可能な限り多数な人に、最もわかりやすい形で、その存在を知らしめ、理解を深め、うまくいけば気に入ってもらうようにするための広報イベントなんですわ。

だからこそ、普段は数百、多くても3000人くらいまでの聴衆を対象にせざるを得ないクラシック音楽のオーケストラ演奏を、野外で数千人、場合によっては万単位の人を相手に行う。そのために普段は使わないマイクやらスピーカー、巨大な映像投影画面などのテクノロジーを駆使する。テレビ中継やネットでのライブストリーミングではなく、多少は遠かったりちっちゃかったりするけど、とにもかくにもライブで接してもらう。
無論、そんな無茶をするのだから多少の妥協は必要なわけで、風が吹いたら音が揺れたり、よく聞こえなかったり、見えなかったり、あるいはスピーカー真下で五月蠅いほどだったり、生音とスピーカー音がずれて気持ち悪かったり、雨降ってきちゃって大変だったり…あれやこれやいろんなことが起きてくる。

でも、「これだけ多くの人に無料なりめちゃくちゃ安い値段で聴いてもらうんだから、文句言ってもしかたない」なわけですわ。あくまでもイベントとして妥協の産物、なのであります。

さても、昨日一昨日の横浜でのイベント、どうもちょっと様子が違った。ぶっちゃけ、ものすごい誤解されそうな表現と承知で記せば、「野外でオーケストラやピアノやらのクラシック音楽を聴く、ということそのものを目的とする商業イベント」だったわけです。

となると、きっちりしたものを提供しようとすると、ものすごおおおおおくハードルの高い、ものすごおおおおおく技術的な要求の厳しいイベントということになってくる。クラシック演奏家のお仕事とは別の、ホントに大変な技術面のスタッフワークが必要になってくる。それがどれだけ大変なことか、正に「誰もやらないにはわけがある」という有名な格言が大きく浮かび上がってくるわけで…

数万の聴衆を相手にするのではない、昨日の規模の会場(向こうにあるみなとみらいホールの規模とそう違わない客席数だったわけですから)で敢えて商業レベルで成り立つ野外イベントをするなら、まだまだ超えねばならぬハードルは高い、とあらためて思わされたのでありましたとさ。

なんだか主催者の皆様には失礼にして無責任な話になってしまいましたが…ゴメン、そういうもんだからこればっかりは仕方ない。お許しを。

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