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最初に「配信評論」を始めるのは誰か? [売文稼業]

昨日のチェンバーミュージック・ガーデン無観客有料配信スタートの告知に続き、サントリーホールが本日午前10時に第2弾、ってか日程的にはこっちの方が早い、一週間後の来週水曜日のホール主催配信イベント開催を発表しました。こちら。
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20200610_M_4.html?fbclid=IwAR3LFyFdcD3mucHM-H8grVlXHdHz1dKJ_z-nrpdK3JYacK5yFJoNdaHSDPU

演奏は「日本フィルハーモニー交響楽団 ソーシャルディスタンス・アンサンブル」だそうで、なんだかなぁ、誰が言い出したんだか(顔は浮かぶけど)、まさかこの名前がホントに通っちゃうとは言い出しっぺは思ってなかったんじゃないかしら。めちゃくちゃ判りやすい。

このイベントのポイントを列挙すると…

★226安倍要請数時間後の夕方にサントリー・ホールディングス会長が官邸に招聘されなにやら会談があって以降、結果的に民間ホールのフラッグシップとして政府要請に率先して応じる形になっていたサントリーホールが、緊急事態解除後、戦陣を切ってホールの正規主催事業として無観客オーケストラ公演の有料配信を再開する。

★あくまでも視聴はライヴがメインで、見直し配信はライヴ鑑賞チケットには含まれない。見直し配信は期間限定アーカイヴとして別にチケット購入が必要になる。

★アメリカの団体のようにチケット購入時に額の設定は聴衆に任せるドーネーションを募るのではなく、値段が最初から設定されたドーネーション付きチケットも同時に発売する。ドーネーション分の2500円が公益財団法人への寄付として損金扱いに出来るかは不明。

★サントリーホールはチケットセンターはぴあのシステムで、先に発表されたCMGオンラインもPIA LIVE STREMを動画配信サービスとして利用していた。だが、今回はもうひとつの大手eプラスのStreaming+を利用する。日本フィルが既に動画有料配信を行っているテレビマンユニオン・チャンネルでもない。

業界的にはいちばん最後のところがなかなか微妙なことが起きていそうで、いちばん興味深いのだけど、視聴者の皆様とすればそんなことはどーでも良いことですな。

※※※

以上で口コミ情報拡散作業はオシマイ。以下は、読者が極めて限られた業界話ですう。

やくぺん先生とすれば、昨日から一気に表に出てきたこのサントリーホールの動き、「新たなる日常」の中での緊急避難なのか、それとも「日常」が戻ってきた後(我々の世界が2020年1月より前に戻るとは思えないのだけど、ま、それはそれとして)にも形を模索しつつ維持される「純粋古典音楽」というかなり特殊なアーツ形態の新たな受容と供給のフォーマットになっていくのか?そこが最大の関心でありまする。

このような視聴形態が一般化するならば、評価やら批評の形体もそれに対応していかねばならない。具体的には、「オーディオ批評」という視聴の媒体を含めたトータルな評価、「レコード批評」というパッケージを前提とした評価などが業種として存在するように、「ストリーミング視聴批評」というジャンルがきちんと確立されねばならんだろうなぁ、ということ。

これまでだって、ホールからのFMでのライブ中継などはいくらでもあったわけですが、それらをラジオやテレビを通して聴取し、演奏に評価を下し、業界的に価値のある「批評文」として小品として提供する、というシステムはありませんでした。あくまでも評価(=様々な意味での「価値」を作り出す言語活動)は、コンサートホールでのライヴに拠ってのみなされていた。ネット環境が整備され、ベルリンフィルやらヴィーン国立歌劇場やらメトやらの「ブランド団体」がブランド維持強化のためにそれなりの規模のインフラを自前で構築して配信を行う、ということは10年代に始まっていたとはいえ、例えばベルリンフィルのネット中継での定期演奏会を、広島県比婆郡やらフェアバンクスやらノヴォシビルスクやらサンパウロやらヨハネスブルクやらの自分ちのパソコン前に座った「偉い音楽評論家の先生」が視聴し、評価し、新聞や音楽媒体に記事として発表し、原稿料をいただく(当然、世界中の関係者やファンからの批判も浴びる)、などということは起きていませんでした。

ですが、これからは、そういうこともあり得るのではないか。聴衆とすればサントリーホールであろうがベルリンのフィルハーモニーであろうがフィルハーモニー・ド・パリであろうがサンフランシスコ戦勝オペラハウスであろうが、時差というどーしよーもない問題を棚に上げれば、みんな自分ちのパソコンの前、ヘタすれば通勤途中の三密電車の中の携帯端末に繋がったヘッドフォンなのです。そこで鳴っているものを批評して、価値を与えてくれる職種は、やはりないと困るでしょーに。

てなわけで、誰が最初に「ネットストリーミング配信音楽批評」をやって、ユーチューバー的な個人商売ではない、既存音楽産業システムにきちんと取り込まれた形を示せるか。そもそも、そんなことが出来るのか?業界としてそういう方向へと「評価」というものを生き残らせていくことが可能なのか?

自分が30代から50代前半の現役なら、もうワクワクしていただろーなぁ、この世界。爺は高みの見物じゃわい。

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チェンバーミュージック・ガーデンはゲームチェンジャーたり得るか? [音楽業界]

暦の上では夏になった昨日、サントリーホールから以下のようなアナウンスがありました。
サントリーホール CMG オンライン.jpg
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/chamber2020/online/

このコロナ禍で中止となった初夏恒例のサントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)の一部公演をほぼ予定通りに行い、ブリーローズから有料でライブ配信する、というものです。

興味深いのは、予定されていた演奏会の時間や演目は基本的に変更せずに、日本の演奏会開演時間の常識となっている午後7時や週末午後1時などに配信。無観客とはいえ本来の会場、ヴァーチャルな形で可能な限り実際に「室内楽お庭」が開催されていたときと同じ状況で演奏が行われ、聴衆はいつも通りにサントリーホールの公式ページからオンラインチケットを販売する、というもの。ストリーミングのハードに関しては、以下のようなことになっております。

本公演は動画配信サービス「PIA LIVE STREAM」を利用し、動画配信プラットフォーム「ULIZA(ウリザ)」を使用します。チケット購入から視聴までの流れは「PIA LIVE STREAM」特設ページ内の「購入 / 視聴方法」でご確認いただけます。
 「PIA LIVE STREAM」特設ページ https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream/

ひとつ心配なのは、告知方法ですね。東京圏のクラシック音楽愛好家の多くの皆さんが「次にどのコンサートに行こうかなぁ」と思ったとき、驚くなかれ、「会場入り口でコンサートサービスさんが配る大量のチラシ」というデジタル時代には信じられないような思いっきりレトロな媒体に大きく頼っているのは事実でありましょう。21世紀初頭にオープンした晴海のホールでは、「もうチラシはつくりません」と宣言し、しばらくはコンサートサービスさん委託型のチラシをやらなかったのですが、聴衆の皆さんから大変に不評で、プロデューサーは白旗を揚げざるを得なかった、という事実があります。その後は「ぶらあぼ」という無料紙媒体が有料音楽雑誌のコンサート情報を駆逐して今に至っているわけですが、それもやはり「コンサート会場に行って貰ってくる紙媒体」です。

きちんとしたデータがあるわけではないけど、要は、今の興行の世界では例外的にデジタル宣伝に送れたジャンルだったんじゃないのかしら、所謂「クラシック」って。コアな聴衆層がデジタル弱者の高年齢層である、というとこともあるのか。はたまた大きなライヴでもたかが3000人が限界の、興行の世界からすれば小規模な世界だから情報伝達を広くする必要もないのか。

ま、なんにせよ、このデジタルお庭、告知方法が旧来のクラシック業界のやり方が全く不可能です。その辺り、現場担当者Cさんに直接尋ねたところ
「某巨匠デザイナーに、オンライン用のシンボルを作ってもらっただけです。感染症の先行きが見えなかったので、今回は印刷物に頼ることを避けました。そして、このタイミングなので、オンラインのみでの告知です。」
とのことでありました。このニッポン国民一斉巣籠もり期間中、人々のデジタル対応が一気に進んだのは事実ですから、こういうことも可能になってきたのかしら。

さて、この溜池夏の室内楽お庭、恒例のベートーヴェン弦楽四重奏全曲や、大いに期待が盛り上がっていたたわわに実った初夏の果実たる葵トリオのピアノ三重奏全曲がなくなってしまったのは残念だけど、巨匠のチェロ・ソナタ、ほとんど東京Qの先生たちの演奏などはあります。花屋さんでブルーローズを買って画面の横に並べて(普通には売ってない?)、とは言いませんけど、初夏の溜池の気分をおうちで味わってくださいませ。

水無月に入り、一気に「ライブの有料配信」の流れが出てきた感はある中、サントリーホールという東京のフラッグシップが、三密を避ける条件をクリアーする可能性があり、中身はオーケストラやオペラにだって負けない室内楽というジャンルでまずは世間の流れを変えていくことが出来るのか。大いに期待しましょうぞ。

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新開地に夏が来た [葛飾慕情]

水無月一日、とうとう夏になってしまったじゃないかぁ…

毎週金曜午後遅すぎない時間に恐る恐る京成電車と都営地下鉄に乗って佃の塒に戻り、月曜朝の燃えるゴミ出しのために日曜夜からは川向こうの新開地葛飾巨大柿の木下オフィスに巣籠もり逗留、町工場に向いた表の公道に落ちまくっている柿や桃、サルビアの葉っぱや花弁の掃除の他には、近所のコンビニにすら行かない…ってな生活が始まったのは、今を去ること10週間も前、春のお彼岸頃からだったか。

早々と咲いた桜に上野公園に人がどっと繰り出す三密(そんな言葉は、まだ無かった)を抜け、旧奏楽堂でのベートーヴェンのピアノ三重奏全曲演奏に3日間通ったとき、俺は絶対にコロナ・ウイルス保菌者になったぞと確信。年寄り家庭の佃での危険極まりない家庭内濃厚接触を避けるために、自主隔離を決意。これだけの期間、所謂コンサートホールや劇場や、はたまた練習室やサロンやらに足を運ばないなんて、40年ぶりくらいじゃないかしら。

このパンデミック世界に突入する前は、いよいよこの葛飾オフィスも建て替え話が進んでいて、巨大柿の木が実を付け公道を赤く染め、甘い香りで満たす秋も昨年でオシマイになるところだったが、どうも銀行さんも工務店も根こそぎ話がひっくり返り、それどころではなくなってしまったこの「新たなる日常」とやら。ニンゲンの世界がどうあれ、春の訪れから初夏に至るまで、時間の変化を教えてくれるのはこの地球上の最強生命体植物の権化たる柿の木と、桃や蜜柑、それにこのかつての親の家が葛飾オフィスとなってから植えた覚えもまるでないのにみるみる巨大に聳えつつあるサイプロス。季節無関心な裏のギンモクセイも、雀たちの寝床になっているだけじゃなくて、地味な白い花をしっかり咲かせては落ちていくのをあらためて知る日々。

本来ならばこの季節、5月半ばの大阪国際室内楽コンクールを今年の最大のイベントとしていろいろなことが起き、今はサントリー室内楽お庭から、北イタリアはレッジョの初夏の光の中に燕たちが飛び回るのを眺めていた筈。天才パスカルくんも7月の《ルル》のためにトーキョー長逗留にやってくる。新帝都が世界大運動会で大騒ぎになるときには、久しぶりの道夫先生復帰のゆふいん音楽祭が遙か大分で待っていた…。

そんな仮想世界のタイムラインを愛でても仕方ないと思いつつ、なぜかフライトが95%削減になって外国航空会社などひとつも乗り入れていないのに「輸送力増強」のために強引に始まった羽田新北風離陸ルートを巨大柿の木の上まで登ってくるちっちゃな737や320、はたまたダッシュ9まで姿を見せるようになり、たまぁに78や350がやってくるとなんてデカいんだと感嘆する奇妙な空を眺めると
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もう柿の木上空を支配するのはひよちゃんでもなければシジュウカラさんでもなく、遙か高みを滑空しつつギチギチ歌う燕さん。朝になると秋に大きく実るまで待てずに落ちていくちっちゃな実と蔕の絨毯と化している巨大柿の木や、堅そうな実をつける桃
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周囲では、蜂さんたちが一生懸命本来のお仕事をなさってら。
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共にお籠もりの日々を過ごす友のために出してやっている佃のセレブなぶんちょう(食いしん坊のべっぴんさんは、コロナで没したロヴェット御大と同じ日に、一緒に天国に付いていってしまった)の食い残しは、ノンビリおっとりほーほーさん
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それに半ダースほどの雀ファミリーが占拠。なくなるとじゅぐじゅぐほーほー仰るのは困るなぁ。嘴の黄色い雀っこよ、虫はもういっぱい飛んでるんだから、ちゃんと自分で採れるようにしないとダメでちゅん!
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デジタル弱者の爺には仕事など振って来ないコロナの日々、このオフィスを維持する固定費と食費が賄えるかどうかの収入しかない今日この頃ながら、紙の本は佃オフィス撤収時からまだ図書館に並べ切れていない程あるし、「レコ芸」原稿をやれるほどまともなオーディオ装置はないもののデジタルアナログ音源も山積み。楽譜は必要最低限のものしかないが、まあ、デジタルでなんとかなる。もう死ぬまでかけてもこれらを処理し切れないのは明らかなライブラリー積み上がる葛飾巨大柿ノ木下で、こんな生活が続いても、それはそれでええんでないかい、ねぇ、ほーほーさん。

かくて、川向こうの新開地は葛飾、元町工場だらけで周囲の住宅地の建て替え作業が次々と始まりつつある年老いたステルスタウンにも、ぼーとしてても夏が来た。

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薫風に 柿の子落とし 春はゆく

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