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南の扉を全開にして晩夏の熱風を通わせて… [パンデミックな日々]

旧大日本帝国敗戦受諾の日、東京文化会館小ホールに午後1時過ぎから午後7時まで座って、延々とバッハとブリテンを聴いておりました。

いつから始めていたのか、もう記憶は定かでないけど、今や京都を拠点に室内楽を中心にマルチで活動なさっており、この春からは相愛の先生になっている(って、ホントに教えに行けてるのかしらね)
https://www.soai.ac.jp/information/news/2020/01/post-37.html
チェリスト上森祥平氏、晩夏恒例となっている「バッハの無伴奏チェロ組曲に20世紀無伴奏作品を挟みながら全曲演奏する」という2020東京五輪マラソンにも匹敵する荒技の日でありまする。
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以前は浜離宮だったような気がするんだが、数年前からマネージメントをしているミリオンコンサート協会お得意の「長く続く定番曲全曲企画」のひとつとして上野で開催されるようになっている。クリスマス頃の道夫先生《ゴールドベルク変奏曲》、大晦日のベートーヴェン弦楽四重奏一日でハーフサイクルと並ぶ、三大企画であります。

ちなみに、前の2つの言い出しっぺプロデューサー小尾さんが先頃お亡くなりになり、道夫先生は小尾さんと「お互いどっちかが逝くまで」という口約束だったんでもう今年はいいでしょ、という事になったそうですが、遺された若き(でもないが)スタッフ連の説得で今年も開催予定だそうな。このコロナ禍、年内で収まるとは思えず、どうなるかは誰にもわかりませんけど。

もとい。んで、その今や晩夏のトーキョーの風物詩となりつつあるバッハ・マラソン、これまたデータはいい加減で申し訳ないけど(「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」が当私設電子壁新聞のモットーであることをお忘れなく!)、10年代半ばからはバッハ全6曲とブリテン全3曲、という究極の灼熱のトライアスロン企画となった。

今年は旧日帝敗戦受諾の日に設定されました。なんか、良心的懲役拒否を貫いたゲイということで社会的には大いにしんどい状況で英国から北米に逃れねばならなかったブリテンという方の背景を考えると、納得がいったりして。ちなみに、曲は盟友ショスタコの晩年様式などとも通じる最晩年のものですけど。

このコンサート、客として座っている側も弾く側同様に戦略が必要で、なんせ《マイスタージンガー》全部聴く位の長さだけど、オペラとは違って作曲者の方が途中で客が気を抜く箇所を作ってくれてはいない。そりゃ当然で、こんな演目をやること考えてないでしょうからね。だから、「このくそ暑い中では全部集中するのは無理、こことここは座ってるだけでスイッチオフ」みたいな瞬間を用意しておかねば、休憩込み5時間半の長丁場を乗り切るのは不可能です。上森氏はもっと大変なのは百も承知ながら、これはもうシロートが200キロマラソンとかやってる選手の気持ちを考えようがないみたいなもので、ぐぁんばってくれ、としか言いようがないわ。

結果として、今年もバッハの1番と4番の間にブリテン1番が挟まれる第1部はほぼアウト。30分の休憩を挟んで2番と3番の間にもうひとつの2番が挟まれる第2部が、大人気のバッハ3番が頂点となる弾く側も聴く側も充実したところ。で、サパー休憩40分也を挟んで(JR公園口が文化会館楽屋真ん前から北にちょっと移動し、文化会館正面入口の真向かいにコンビニが出来て、サンドイッチやらおにぎりやらが買えるので、こういう無茶な長丁場企画にはとても有り難いことになりましたぁ!)、しんみりむっつりの難曲5番と、妙に突き抜けちゃったようなブリテン3番、そして最後に低音発ほっぽらかしののーてんきな6番で第3部が締めくくられると、短くなり始めた晩夏の日はすっかり沈んでおりました、ってなる。この長丁場の最後になると、ホントに6番ってのはあっちの世界にいっちゃってるお祭り曲だなぁ、絶対にチェロのために書いてないよなぁこの曲、とあらためて思うのであった。

この恒例の演奏会、今年はいずこも同じ真夏のコロナ対応様式で開催されています。考えてみたらコロナ下では始めて足を踏み入れた我がホームベースのひとつたる文化小ホール、ロビーへと上がっていくと、熱風が吹き込んでら。おお、「バリアフリー」などという概念は頭の片隅にすらない60年代高度成長へとイケイケゴーゴーの頃の建物らしく階段で地下に降りていくトイレの入口の向こうの扉が、大きく開かれている。この会場に70年代以降どれだけ来たか判らないけど、この扉が開かれ
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ほったらかしの草ボウボウ、上野地区でもっと野生の緑の溢れた庭園とも言えない芸術院との間のぺんぺん草の彼方から、灼熱の南風が押し寄せる。もうひとつ、駅に近い側の喫煙所になってる空間に出る扉も、同様におっぴろげ状態です。

そして、20分から30分弱の各曲が終わる度に、休憩ではなく3分程の「換気Time」が設けられ、オーディトリアムの上手下手の扉が開かれる。と、楽器のためにも少しでも湿度を下げるべく冷え切った設定にされている空間に、夏の強い光がぽっかりと浮かび上がり、熱風が吹き込んでくる。
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結果として、コロナの為の強引な換気は、長大なバッハ&ブリテン・トライアスロンの走りながらの合間合間の給水みたいなことになり、さあ、次にいこうぜ、って気持ちになってくるのであった。

コロナの時代の「新しい日常」がこうなのかは知らないし、これが冬だったらどうなんじゃろか、と思わんでもないけど、灼熱のバッハには驚くほどの効果がある。お陰で、なんだろうが、今年は第3部の大人の味わいがじっくり堪能できましたとさ。

「今年は長くなったので、アンコールはなしです」と締めくくった上森氏、弾けなくなるまで続けると仰っているというこの真夏のトライアスロン、来年も今年同様に敗戦受諾の日に同じ会場で行われるとのことでありまする。

どんな夏になってるのか、誰も知らない。

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