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さらば!麦畑でモルツを飲む男達よ [弦楽四重奏]

本日と明日、東京溜池のサントリーホールで、アルバン・ベルクQの日本で最期の演奏会が行われます。彼らのヨーロッパの事務所の発表では、帰国後の演奏会のほぼ全てがシフらを加えたシューベルトの「鱒」やら弦楽五重奏やら、一種の「さよならガラ」で、純粋なクァルテットのフルコンサートとしては、明日のサントリーが最期かも。なんかその先南米の演奏会がある、という情報もあるんで、良く判らんのですが。

いずれにせよ、日本で「アルバン・ベルク弦楽四重奏団」という団体が公演を行うことは、この先、しばらくはないでしょう。勿論、世の中にはシューパンツィックQやら、イザイQやら、ブダペストQやら、イタリアQやら、果てはコーリッシュQまでもが21世紀初頭の現在にも存在しているわけですから、数世代先に「アルバン・ベルクQ」を名乗る団体が出ないとも限らない。

先月初めからの彼らのヨーロッパ最終ツアー、そしてその勢いで乗り込んだ日本ツアーに関しては、信頼の置ける方から各地での状況をいろいろ報告いただいております。どうやら、かなり出来不出来にバラツキがあるらしく、パリはシャンゼリゼ総立ちの名演。日本に辿り着いても、神奈川県立音楽堂や先日のフィリアホールは過去数回の来日で一部マニア層から懐疑的な声が上がっていた不安定さが影を潜め、「流石に解散公演なんで力が入ってる」とのこと。一方、入善や大阪では、聴衆の暖かい大拍手を受けるものの、コアな愛好家の方から些か問題がないとはいえなかったとの声も聞こえる。

さても、今日明日はどうなるのやら。なにせ2000席の大ホール、当日券はあるようなので、ご関心のある方はいらっしゃってはいかがでしょうか。今、晴海で練習してるボロメーオQの第2ヴァイオリン、クリストファー・タン君など、「シュルツは第2ヴァイオリンとしてはパーフェクトで世界最高だよ、明日の公演、いきたいなぁ、練習時間なんとかならないかなぁ」などと申しております。

ところで、朝日新聞一昨日の夕刊にお馴染み吉田純子記者のインタビュー記事が掲載されておりました。この団体の功績を様々に讃えてありましたが、正直、そこに記されたような彼らがやってきたことは、誠にまともこのうえないことばかり(現代作曲家への貢献を特記するものの、リームやシュニトケなど既存のビッグネームはともかく、同時代ヴィーン系の作曲家が彼らの御陰でメイジャーになることはなかった)。20世紀末に活動したプロの弦楽四重奏団として、正に王道を往っていた。メイジャーな団体とはそういうものなのだ、というだけのこと。

アルバン・ベルクQでひとつだけ特別だったことがあるとすれば、やはり「サントリービールの広告で麦畑の中で帽子被ってアメリカ弾いた」ことでしょう。

どの広告代理店のどのプロデューサーが仕掛けたことか知りませんが、ああいう一般大衆が消費する嗜好品のメインキャラクターに弦楽四重奏団が取り上げられるなんて、恐らくは、空前にして絶後でしょう(あとは、ハウスカレーの宣伝で中村紘子さんのバックバンドとして東京Qが登場し、ドヴォルザークのクインテットを弾いてカレー喰ったくらい)。アルバン・ベルクQを広く世間に有名にしたのがあの麦畑の中の「アメリカ」だった事実は、20世紀末日本での「クラシック音楽」受容を考える上で、案外、重要なんじゃないかしら。

小生とすれば、アルバン・ベルクQで唯一残念なのは、彼らがツェムリンスキーの2番やシェーンベルクの1番など、どう考えてもぴったりな作品を弾かなかったことに尽きます。どこかで弾いてるのかもしれないけど、世界ツアーに持って歩き、録音することはなかった。
2度目の来日のときに、結成されたばかりの日本アルバン・ベルク協会のパーティかなんかで、「なぜシェーンベルクはやらないんですか」とピヒラー御大に尋ねたら、「2番の扱いがねぇ…」と仰ってた。その後も、昨年のチューリッヒで3番を弾いたりしているが、とうとうシェーンベルクはメインのレパートリーにしなかった。どうしてなのか、今、あらためて尋ねてみたいものです。「皆さんのレパートリーは、多くの人が想像しているほど広くはなかったようですが、どうしてなんでしょうか」ってね。

さて、以下の駄文は、小生が去る木曜日のフィリアホール公演の無料配布プログラムのために書かせていただいたものです。フィリアホールのご好意により、抜粋し転載させていただきます。どういうわけか、このような議論は全然なされていない。明日の最期の演奏会にお出かけの方は、こんな視点で彼らの演奏会に接してみてはいかがざんしょ。

「今シーズン終了を以て、アルバン・ベルク弦楽四重奏団(以下ABQ)はその歴史を閉じる。イタリアQ35年、アマデウスQ39年、ラサールQ41年、スメタナQ44年などを考えれば、38年という時間を「天寿を全うした」と表現してもあながち間違いではなかろう。 ゲヴァントハウスQのように結成200年を誇る団体はある。ボロディンQ結成63年、ジュリアードQも62年だ。無論、メンバーを次々と交代しながら、これだけの時を生き抜いている。ABQも同じ方法を採ることが可能だった筈だ。だがこの団体は、そうはしなかった。どうしてか?これから私たちが接するABQの演奏ひとつひとつが、その理由を探り、ABQとは何だったのかを考える、貴重な時間なのである。(フィリアホール5月29日公演当日プログラムより)」

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コメント 6

北

失礼いたします。

一昨年だか川崎のABQ公演に行き、「おお、ヴィオラ頑張ってるな」と思ってしまいました。

そう。「思ってしまった」んです。
要因としては個人的な経緯が大きいのですが、ともあれ気がついたらそう感じていた。

音楽としてこれはアリですが、弦楽四重奏団としてはどうなんだろう。
他の3人は「頑張り」をどう受け止めるのか。
演奏者サイドのことはまったくわかりませんが、聴くことに特化した側としてはそんなことを、やくぺん先生の記事を読んで考えてしまいました。


舌足らずですみません。長々書くと申し訳ないのでこれで失礼します。
by 北 (2008-06-01 22:44) 

Yakupen

北様のご感想、「ご理解申し上げます」なんて気楽なことを言うと失礼ですので敢えてそうはもうしませんけど、なーるほどねぇ、と思いました。

酷い言い方をすれば、「去っていく者はいいだろうが、生きていかねばならぬ者もいる」ってことかしら…ううん、ちょっと違うかなぁ。

なんにせよ、去っていく者の麗しさを、うらやましげに見送る者たちがいることは確かです。あたしゃどっちかちゅーと、そっちの連中と一緒にいたい。うん。
by Yakupen (2008-06-02 14:07) 

ABQの一ファン

はじめまして。いつも、ブログを楽しみに拝見させていただいております。
大阪公演のアンコール(ベートーヴェンのカヴァティーナでしたが、これは掛け値なしの名演でした)を思い出しながら、この記事も読ませていただきました。

さて、細かい話で恐縮なのですが、「麦畑でモルツ」のCMで弾いていたのは、ドヴォルザークの「アメリカ」ではなく、ガーシュインの「ス・ワンダフル」だったはずです(CMにいくつかヴァージョンがあったのかもしれませんが)。

当時高校生だった自分が、地元のレコード屋を通して問い合わせてもらったことなので、特に印象に残っています。「録音の予定は?」「まったくありません」というやり取りも記憶しています。

本筋とは関係のない話ですみませんでした。(^^;
by ABQの一ファン (2008-06-02 14:39) 

Yakupen

ファン様、そりゃーファン様が仰ることが正しいに違いないです。確かに、オリジナル曲もあったはずで、CM音楽だけでなく多方面でご活躍の作曲家、樋口康雄氏が手がけてた筈です。←いーかげんな情報でスイマセン

ただ、小生には、なんかカクシュカのオッサンが(別にアップになってた訳じゃないですけど)アメリカの頭弾いてる音の記憶ばかりがあるんですよ。違ってたら大笑いですねぇ。人間の記憶ってのはえーかげんなもんです。ま、毎度ながら「この電子壁新聞に書いてあることは嘘ばかり」という宣言を以て笑ってやってください。

蛇足ながら、どうやらアンコールは作品132の日はカヴァティーナ、抒情組曲の日はハイドンのラルゴみたいです。カヴァティーナのアンコールは、小生が彼らをは始めて聴いた立川市民会館(!)でもやりましたっけ。

by Yakupen (2008-06-02 14:59) 

ABQの一ファン

返信、どうもありがとうございました。

麦畑のCMは、ABQのLP(!)を何枚か買い始めたちょうどその頃でしたので、私にとってもABQの「特別なこと」でした。ツボにはまってしまったので、慣れないコメントなんかをしてしまい、恐縮です。

脱線ついでに…

「ス・ワーンダフール」の節は、ピヒラーが弾いてましたが、その後に続くおかず(?)をカクシュカが弾いていたと思います。言われてみれば、「アメリカ」の冒頭の一部分に聴こえなくもないですね。ス・ワンダフルは、おそらくト長調だったと思いますので、調性は違いますが。

91年の大阪公演は、1時間近い(もしかしたら超えていた?)怒涛のアンコール攻勢でした。その時もカヴァティーナを弾いてくれたのを覚えていますが、当時は、バルトークの4番の4楽章(かな?ピッツィカートの楽章です)とかドビュッシーの3楽章の方が印象に残った記憶があります。

コメント欄を汚してしまい、大変失礼いたしました。(^^;
by ABQの一ファン (2008-06-02 20:59) 

ウマ面

こんにちは
もし間違えていたなら申し訳ないのですが、87年頃モルツcmで彼らの演奏を聞いた記憶があります
麦畑で、爽やかで清涼感溢れるあのリズムがいまだに忘れられんません
もし私の記憶が正しく、管理人様がご存じであれば曲名を教えて頂きたいのですが・・・・
by ウマ面 (2010-11-21 09:53) 

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