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バルトーク5番の作曲者手稿譜金曜に日本初演 [弦楽四重奏]

来週の金曜日にはエミリア・ロマーニャ地方に向けてシベリアを越えるわけだが、それまでに物理的に処理できるとは思えぬ程の量の締め切りが積み上がっていて、流石に壁新聞まで手が回らぬ。とはいえ、今流さないと腐ってしまう情報もゴッソリ溜まっているわけで、困ったもんだ。なんでこれで貧乏なんじゃろーか?

さて、そんな愚痴をこぼしながら、昼前には晴海トリトン内のバイリンガル幼児園というところにボロメーオQがアウトリーチするのを見物して参りました。ここ、バイリンガル、とはいえ、頭の黒い子ばかり。どうやら、太郎君や花子ちゃんの間に、キムさんやらジャン君やらが随分といたらしい。イーサンが「ハニョンハセヨ」と挨拶すると盛り上がってたもん。

アウトリーチの内容や写真は紹介するわけにいきませんが、弾いたのは、ベートーヴェンの作品130とバルトークの5番ばかりでした。4歳の子供に聴かせる曲じゃあない!って仰天するでしょうけど、無論、一部です。ご安心を。
ベートーヴェンの後期というのは、素直な目で眺めれば、それこそ赤いちゃんちゃんこを着た爺さんが子供に戻っちゃったみたいな素朴な音楽がいっぱい詰め込まれている。それに、バルトークは、ある部分だけを取り出せば、「夜に星を見上げたときに耳を澄ませると、いろんな音が聞こえるでしょー」と紹介して、虫の声だとかに注目させられる。それに、2拍子と3拍子を組み合わせたリズムのずっこけぶりとか、身体性に結びついた判り易い部分もいっぱいある。それこそラトル&ベルリンフィルの「春の祭典」アウトリーチと同じですわ。

そんな風に4歳児に紹介された大喜びだったバルトークの5番ですけど、来る金曜日の第一生命ホール舞台上での再現では、幼児の対極にいらっしゃるマニアの方々が大喜びする事実があります。

このところ、ボロメーオQは「アメリカ国会図書館のオリジナル手稿譜を直接見ながらバルトークの全6曲を1日で演奏する」というプログラムを繰り返してるそうな。今回の晴海のフェスタでは、そのうちの半分が披露されているわけで、ニックのパソコン譜面台にはオリジナルスコアが入っています。金曜日には、演奏中のニックがスクリーンで眺めているオリジナルの5番のスコアを舞台の後ろのスクリーンに同時投影しながら演奏される。正に一部で話題のパソコン譜面台あってこそのイベントであります。http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2008-05-24

問題はそんなテクノロジーにとどまらぬ。数日前、「ストリング」誌のためにニックがこの電子譜面台について語るインタビューに立ち会わせて貰いました(9月号くらいに掲載かしら、乞うご期待)。その際、テクノロジーの細かい話のあとに、とんでも無いことが明らかにされたです。

金曜日に晴海で披露されるバルトークの5番は、これまでのどの録音や演奏でも音になったことがない、バルトークが出版時に改訂する前のオリジナルの形で演奏されます。これまで少なくとも日本では誰も見たことがない譜面が投影され、誰も聴いたことがない音が出ます!

具体的な話は長くなってとてもじゃないがここでは記せません。で、現在、銀座だろうが本郷だろうが、どこでも売ってる版との違い、一番判り易い部分だけをひとつ記しておきます。以下、小生の会話の記憶だけで書いてるので、細部は信用しないこと。詳しくは、年末にコマーシャル録音盤としてリリースされるアメリカ国会図書館所蔵バルトーク手稿譜によるボロメーオQの全曲録音CDに納められる予定の、ニック執筆による長く詳細な解説書をお待ち下さいませ。

例えば…5番の終楽章は、パート譜ではアクセントを付けた音符が並んでいます部分があります。ところが、バルトークの手稿スコアでは、ある箇所がスラーになってる。どうも練習に接したバルトークが、「スラーのままではダラダラ流れてアンサンブルがぐずぐずになり、音楽が分からなくなっちゃうから、アクセントを付けるべきだ」と思ったらしい。だが、練習してきっちりアンサンブルが出来るようになったら、アクセントを外してスラーで弾くように戻して貰うのが意図だったらしい。結果としてオリジナル手稿総譜では、アクセントのある部分とスムースな部分が対比的に書かれていて、質の違う音楽が次々と出入りするようになっているそうな。

権利の問題などあまりに微妙なので、わざと画面にピントが合っていない写真をちっちゃくして挙げます。この作品にお詳しい方なら、どの部分を示しているか、これでも十分に想像がつく…わきゃないかぁ。
020.JPG

オリジナル譜とか校訂新版とかいう話は、確かに譜面の細部を眺めるとその通りなんだけど、耳で聞いても良く判らないのが殆どです。でも、このバルトーク5番の終楽章に関しては、はっきりと違いが判りそうですねぇ。小生も音では聴いてないんで、あまりえーかげんなことはいえんですけど。去年の今頃、アメリカ国会図書館で開催されたゴールドベルク未亡人追悼演奏会でボロメーオQがこの曲を弾いたのを聴いてる筈なんだが…情けなや、大昔のことで記憶がない。わしゃバカだ。

なんにせよ、バルトーク熱烈愛好家には聞き過ごせない話題でしょう。なお、今回の作曲者オリジナル手稿譜の使用は、師シモン・ゴールドベルク未亡人の遺志でバロン・ヴィッタがアメリカ国会図書館に寄贈され、ニックが使用許可を得ていることから生まれたボロメーオQと同図書館との深い関わり合いの中で特別に許されたものです。今後の出版などに関しては、出版権を持つブージー&ホークス社の問題ですので、まるで判りません。少なくとも、今日明日どうなるというものではなさそう。

さあ、全世界のバルトーク弦楽四重奏曲愛好者よ、バルトーク研究家諸君よ、来る金曜日は何があっても晴海に走るべし。これ、宣伝でも煽りでもない、単に「来ないわけにはいかんでしょ」というお知らせでありました。

バルトークの楽譜というと、恐らくこれまた研究者諸氏も知らないだろう大ネタが都内某所に眠ってるんだけど…ま、いずれ機会があればご紹介しましょ(うううん、ないだろうなぁ)。

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