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昭和末期レトロな香り [弦楽四重奏]

昨日来、遙かカナディアン・ロッキーの向こうはバンフで第14回、なのかな、ともかく3年に一度のバンフ国際弦楽四重奏コンクールが始まってます。「室内楽」じゃなくて純粋にクァルテットだけに特化したメイジャー国際大会って、レッジョ、ロンドンとここくらいなんだわなぁ(ボルドーは、もう普通の意味での「コンクール」じゃないし)。残念ながら今年は我が灼熱の列島からは誰も行っておらず(そもそも、日本列島拠点でバンフまで呼ばれたことあるのは、911騒動直前のエクと、今や半分が葵トリオとして出世してしまった前回の連中だけなんだが)、でも審査員席には今井信子さん、客席には大阪室内楽振興財団のK氏というガッツリ信用出来るソースがいらっしゃるので、爺は安心して隠居生活出来るのじゃわい。うん。

っても、時差が酷い場所なんで午前中のセッションは無理だが、夜のセッションは列島湾岸新帝都の午前中になるわけで、ライブが聴ける…のは良いが、この時間だと、仕事の連絡などがいろいろ入り、ちゃんと聴いてられないと判った。なんせ夏休みが明けて諸編集部が動き出したところですから、細かい連絡があれこれ来る時間でありまする。結局、現場に行かないとちゃんとは聴けぬ、という当然の事実を確認するばかりの夏の終わり、レイバーデー休暇週間(宗主国は)の湿っぽい列島なのであった。

いずれにせよ、明日からは、ってか今日からはロマン派セッションなんで、どの団体もハイドンみたいに「馬脚をあらわす」ってことはないでしょう。娯楽として聴いていられる筈ですので、お暇な方は明日28日の日本列島&朝鮮半島南時間午前10時半から、ヴァイオリン・チャンネルで中継されるライブをご覧あれ。来年の6月に湾岸に来る予定のメルマンとか、2年前の大阪以降あちこちで弾いては研鑽を積んでるオマールとか、出て来ますから。

そんな中、まだお前聴くのか、と言われそうだけど、涼しくなったとはいえちっとも爽やかじゃなく、夏の疲労が老体に一気に響き始めなんか作文どころか動いたり飯を喰ったりするのすら億劫な死に損ないっぽい我が身を鞭打ち、上野まで京成電車で行って参りました。知る人ぞ知る、って感じの団体、東京ベートーヴェン・クァルテット、ってか、奈切Qの定期演奏会でありまする。
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この団体、なんと1971年から日本フィルの奈切さんらがやってて、今は創設メンバーはチェロさんのみ。ま、そりゃそーでしょー。で、「定期」と題した演奏会はいつも夏の終わり頃で、第一線引退宣言前のやくぺん先生ったら、バンフやらミュンヘンやらで列島にいないか、さもなきゃ松本だった頃。で、この団体、かの荻窪の某名曲喫茶でずーっと続けているライブの他で聴いたことなかった。基本、「オケマンベースのクァルテット」です。

なかなか議論し難い団体ですが、ともかく第一線引退とはこういう地元団体をきちんと拾っていくのが仕事という意味でもあるわけで、のこのこ出かけたわでありました。溜池では今を時めく流向作曲家の現代の傑作と呼ばれるオペラ、どっかでは某大手音楽事務所社長が業界関係者集めた集会みたいなもんがあって、客席にいる怪しげな奴らはやくぺん先生ひとりであります。そんな奴ら、いようがいまいが関係ない、って空気。

結論から言えば、音楽だけじゃなく運営や聴衆まで含め、もうしっかり自分らの世界が出来上がっている団体で、外からどうこういうもんではない。午前中に必死に弾いてたロッキーの向こうの若者がやってるような弓の置き場ミリ単位の合わせの競い合いとも違うし、先々週だっけに松本で聴いた「独奏コンクールファイナリスト級を集め、室内楽アンサンブルと楽譜の読み方の勉強をする」というものともまるで違う。聴く側も弾く側もそれぞれのことが良く判った人達が、モーツァルトやベートーヴェンの楽譜で自分らのやりたこと、弾きたいこと、聴きたいことをやる、という会であります。ですから、お客さんは文化小ホールの8割型が埋まる。無論、奈切さんと一緒に歳を重ねてきた熟年が圧倒的多数で、若いのはお弟子さんかな、って感じ。

第1ヴァイオリンの仕事とは歌うこと、チェロはショスタコなんて大変なもんでも頑張ってるじゃない、内声はどっちに付き合うかをはっきりさせて、って。それはそれでいい。こういうものも、演奏の在り方として、ある。良くも悪くも、名曲喫茶ミニオンとまでは言わぬが、巌本真理Q最後の頃くらいからの、懐かしい昭和末期の「クラシック音楽」そして「室内楽」の香り。

こういう環境で聴くと、アーヴィン・アルディティなんぞは絶対に弾かないと(おおっぴらじゃなく)仰ってるショスタコーヴィチの弦楽四重奏のなんとも言いようがない不思議な「技術的な難しさ」ってのがどういう意味なのか、教えて下さってるような。なんせ日本フィルを引退なさってからかれこれ暦ひとまわりくらいになろうという大長老が、チェロ大活躍の14番ですからねぇ。へえええ、こういうもんなんだなぁ、って。そういえば、この作品、東京ならぬモスクワのベートーヴェンQのために書かれてるんだっけね。そう、巌本真理Qはショスタコーヴィチが新しいクァルテットを書いたという情報が入るたび(恐らくは、よりとよ先生なんかから経由で話をきいてたんでしょうねぇ)、ソ連大使館に行って楽譜を取り寄せてくれるよう頼んでいた、なんて話が現役だった頃からの団体ですから。

ベートーヴェンの作品132も、それこそ世界各地のコンクールで若い連中が弾くのやら、初夏の溜池でいちばん脂の乗りきった頃の奴らが弾くのとは、まるで違う世界。でも、細かいこと言い出さなければいろいろ面倒な後期でも、(明らかに誰かが校訂している作品135以外では)いちばんそのままちゃんと弾けば誰でも「すげえええ名曲だあぁ」と感動する第3楽章後半があるわけで、この演奏家さんで長く聴いてきてる聴衆は、ちゃんとみんな感動してお家に帰れる。

なんか、やくぺん先生如き腹黒い悪人までが善い人になったような気持ちになって、西郷さんの向こうのデパート上掲示板が大気温度28度と示すのを眺めながら、川向こう葛飾に戻ってきたのでありました。

高原の爽やかさじゃない場所で老いていくわしらには、わしらの音楽があっても良い…よね。

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