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祭りの終わりと次の祭り [音楽業界]

旧正月まで1週間、赤い点みたいな南の島の小さな先進都市で21年ぶりに開催された室内楽に特化した音楽祭、最後の演奏会のプレコンサート金管五重奏が始まる直前は、この島の雨期の終わりらしく夕方の驟雨がヨン・シュ・トウ音楽院周辺を襲ったものの演奏開始頃に雨も上がり、摩天楼立ち並ぶ大都市風景の上に大きな虹がかかる。
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参加した11歳から70代までのプロアマ演奏家28団体100名以上の中から選ばれた3団体(11歳の天才少年率いるピタゴラスQ、21年前の音楽祭での教育セッションに加わっていたヴィオラさんを含む地元団体、ヨン・シュ・トウ音楽院を出て地元でいろいろな活動をしていて今回の音楽祭を機にジュロンQと名告ることになった若いプロ団体)、遙々オハイオ州はオーブリン音楽院から学生ゲストのような形でやってきたパンダンQ(メンバーのひとりが日本とハーフのシンガポール人とのこと)が成果発表を行う「教育セッション発表会」と、タンQの創設からチェロを弾き今やバロックチェロから現代音楽までこの島での室内楽には不可欠な存在たるレスリー・タンの芸達者が光るシュニトケのピアノ五重奏までが前半。

後半は、この島でほぼ唯一真面目に室内楽をプロモートしたいと考えている「ストレーツ・タイムズ」誌(さしずめ読売朝日日経全部合わせたようなこの島の最大にして唯一のメディア)に演奏会批評を書く評論家にして音楽プロデューサーのメルヴィン・ベン音楽祭監督
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https://www.sgchamberfest.org/message
とは盟友で、「まだシンガポールには機が熟していなかった」と監督が反省する前回のフェステイバル実現でも尽力なさった英国在住のシンガポール出身重鎮ピアニストのトー・チー・ハン女史が、この島始まって以来のピアノトリオ再現と絶賛の嵐となった初日の葵トリオ演奏会ですっかりお気に入りになった我らが秋元氏とドヴォルザークを4手で共演、我らがオンちゃん率いるコーチングスタッフチームのブラームスのピアノ四重奏曲第3番、そして最後はコンコーディアQに葵トリオ弦楽器らが加わるメンデルスゾーン弦楽八重奏終楽章で、100名近いシンガポール、マレーシア、インドネシアからの参加団体メンバーも座る客席もステージも大いに盛り上がる大団円となりましたです。
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ベン監督に拠れば、演奏会4回で動員人数は1000人を越え、参加者総数はセミナーや先生含め100数十名という、建国半世紀とちょっとの国で行われた室内楽イベントとしては空前の規模となったとのこと。地元の演奏家達も、葵トリオやオンちゃんなどバリバリ現役の室内楽のプロと接することで大いに刺激を受けたばかりか、国際音楽祭のメインゲストなどという重鎮を初めて務め見事に期待に応えた葵トリオもとしても、いろいろ考える多かったとのことであります。

30年前にシンガポール響のメンバーだったタンQが本格的に活動を始め、20年前に国立のエリート学校ヨン・シュ・トウ音楽院が出来て室内楽を教えられる先生が訪れるようになったとはいえ、常設の室内楽シリーズがあるわけでもなく(エスプラネードの向かいのヴィクトリア・コンサートホールで開催される室内楽シリーズは今はシンガポール響の仕切りとなっていて、所謂著名常設室内楽団体は年に1度訪れるくらい、次回は5月のパヴェル・ハースQです)、まだまだ演奏者も「室内楽をどうするのか」手探り状態を抜け出したところ。首都圏や関西圏の学生達とは違って(首都圏の音大大学院レベルの弦楽器奏者なら、メンデルスゾーンの八重奏を一度も弾いたことのない奴など、絶対にいないでしょう)、そもそもプロレベルの室内楽を人前で披露する機会がさほど多くはないレッド・ドットの島でどうやって室内楽の経験を積んでいけばいいのか、この先の課題は大きいとあらためて分かった、正に虹に向かって歩み始める最初の一歩でありました。

経済的にも、民間非営利団体がアーツカウンシルからの支援を受けるイギリス型の支援で成り立っているシンガポールの音楽界、2年後に予定される次回の音楽祭に向けて、監督は早速お金集めに走らねばならない。それだけではなく、今回の葵さんたちが与えたようなインパクトを与え、そしてシンガポールの若者達と一緒になってやれるアジア圏の若きプロ室内楽奏者がどこにいるのか、それも探さなければならない。

てなわけで、まだまだお手伝いすることはありそう、隠居宣言撤回せざるを得ない爺なのであったとさ。ま、全ての室内楽コンクールに顔を出すという第一線仕事は頼もしい後続者に任せ、ヒコーキで2時間程度のキューシュー島から半島やらもちょっと近い南の島を眺めるのが、やくぺん先生の人生最後の本来業務になるのじゃろかな。その意味では、今年のレッジョは行かなきゃならんのじゃろが…ううううむ。

ま、先のことは先のこと。かくて、ネットも繋がる深夜1時20分発のシンガポール航空深夜エアバスはかた号は、キューシュー島首都の板付に向けてマレー半島先っちょからブルネイ沖に向け鋭意飛行ちゅーでありまする。
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朝に到着し海胆頭で温泉県盆地に荷物を降ろしたら、月曜午後にはまた福岡にとって返し、ヴィーンで学んだ九響連中を中心とするUNO弦楽四重奏団のクライスラーを聴きに行かんと。

なんだか結果としてまだまだやんなさいと尻を叩かれ現役復帰宣言をさせられに来たような、2024年グレゴリオ歴新年旧正月前の南の島のたびの空でありました。

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