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アサヒビールは税務署に喧嘩を売るのかっ [音楽業界]

ずっと前に書こうと思ってたんだけど、なんのかんのでタイミングを逸し、当日に至ってしまいました。関係者の皆様、宣伝にならずにスイマセン。

さても、本日、以下のような演奏会があります。ほれ。
http://www.asahibeer.co.jp/csr/philanthropy/art-cul/image/lobby/lobby070424_b.jpg
場所はあの浅草は吾妻橋東詰、大川端に黄金色に浮かぶ巨大オブジェ下、アサヒビールタワーの1階ロビーです。完成直後は近未来的な内装で、実相寺さんが映画撮影に使ったりしてましたね。出し物は、我らが松原勝也バンド。とても藝大の室内楽科の実質上の中心人物たる助教授とは思えない、ヴァンガードQ時代以来の暴れん坊かっちゃんの本音爆裂。普通の意味で「偉く」なってもこんな演奏会をしっかりやるから、このアーティストは信用できるんだけど。

ところでこのチラシ、じっくりご覧になって下さい。とっても面白いことが書いてあります。入場料のところ。「市民パトロネージュ制」とある。で、よく眺めると、なんのことはない「有料だけどお題は聴いてのお帰り、ご自分で相応しいと思う木戸銭を入れてって下さい」ということなんですねん。で、さらに「集まった入場料の全額を演奏者に渡す」とあります。

おおお、ってことは、アサヒビール文化財団さん、とうとうあれをやるのかいな。1960年代初めに、国内最強の主催者だった労音が法廷闘争までやって惨敗したあの「入場税撤廃運動」。あの再現というか、現代に蘇ったゲリラ戦をやろうというのだろーかっ!

労働運動などという言葉が過去の遺物となった21世紀初頭の現在には、知る人も殆どいないかもしれませんけど、昔、労音という組織があった(今もある、ってに!)。猛烈に強大な組織で、岩淵龍太郎先生なんぞに言わせれば、「プロムジカQは大阪で昼夜公演1週間ぶっ通し、「死と乙女」を何度弾いたことか」などという状況だった。日本でクラシック音楽が一番盛んだったのは、恐らく、1947年から1955年くらいまでだったでしょうね。

そんな労音が、戦時下のどさくさで始まった贅沢税としての「入場税」を撤廃させようという運動をした。どうしたかというと、「労音の主催公演で聴衆が払うお金は、興行への入場料金ではなく、全て協会へのカンパなのである。今風に言えば、個人パトロンのドーネーションなのである。だから入場税はかからないのだ」という理屈。で、法廷闘争までやりました。結果、あえなく負けました。この過程、研究なさってる方もいたはず。
今、ネットの上を探したら、この問題を扱った論文が全文落ちてました。これ。ハードな法律論文なので、その道のプロの方か余程お暇な方以外にはお勧めできませんが、ま、関心があったらお読み下さい。http://www.ntc.nta.go.jp/kenkyu/ronsou/18/148/mokuji.html
うーん、小生が上に記したしろーと考えの神話とは、ちょっと様子が違うなぁ。「演奏会は興行なのか」という問題が根っ子にあることは、法律的に冷静な分析では全く入って来ないようだ。法律的な闘い方はどうあれ、モーティヴェーションは「音楽の演奏は興行じゃないぞ」という主張です。

おっと、こんな論文ちゃんと読んでる暇はないので、それはそれ。なんにせよ、この「チケット料金は入場券ではなく、ドーネーションなのだ」という考えは、「演奏会は興行ではないはずだ」という主張と共に、業界の片隅ではしぶとく生きています。些か信用のおけない裏話をすれば、晴海のNPOトリトン・アーツ・ネットワークが立ち上げするとき、「全ての入場料はNPOへのドーネーションであって、税金はかからない」という方向に持って行くのがひとつの最終的な目標としてディレクターの頭に無かったわけではない。文化NPOへの寄付が損金になって無税、というところまで法律が整備されていないので、その考えはまだ実行できてないけど、理想としてはあります。

さても、アサヒビールの財団さんが本日展開するこのやり方、誰が言い出したかは容易に想像つくけど、税金の問題はどうするのか。理屈としては「入ったものをそのまま演奏家さんに渡すだけで、うちは制度としてはお金の動きに一切関わっていないので、あとは演奏家さんの税理士さんが処理なさることです」ということなんでしょう。ただ、こうすることで、少なくとも「消費税」の壁はあっさり越えられる。つまり、皆さんが演奏家さんに演奏の対価として渡すお金に消費税はかからない、ということになる。

うううん、アサヒビール本社裏の墨田区役所、これで納得するのかしら。音楽だけじゃなく、そんなこともワクワクするなぁ。


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