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アルテミス弦楽四重奏団いよいよメディア攻勢開始! [弦楽四重奏]

「弦楽四重奏を専門とする音楽ジャーナリスト」として本職の話をしよう。ものすごくハードな弦楽四重奏ネタです。ま、ホントならばノーギャラでしてはまずい類なのだろうけど、残念ながら日本の音楽売文業界でここまでコアな室内楽話に金を出してくれる媒体はない(オペラやオーケストラならあるんだけどねぇ)。腐らせても仕方ない時事ネタでもあるし。

某外資系大手CD販売店クラシック部門物流担当の若い友人A君から、先程、こんな内容のメールがあった。乱暴にも貼り付けちゃうぞ、えいっつ。

「アルテミスQ が Virgin Classics/EMI と契約し、
第1弾が発売されることになりました。
リゲティ:弦楽四重奏曲第1&2番
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1464658
ベートーヴェン:ラズモフスキー第1&セリオーソ
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1464661
(明日からご覧いただけます)
今後、
シェーンベルク、ベルク/六重奏曲(浄夜?)(エルベン、カクシュカ from アルバン・ベルクQ)3月予定
シューマン、ブラームス/ピアノ五重奏曲(アンスネス:P)
以降、ヤナーチェック、ドヴォルザーク、ピアソラ、ベートーヴェン
とのことでした。
まずは、ご報告まで。」

おおおお、アルテミスQ、とうとう本格的にレコードメディア攻勢に打って出たかっつ。
クラシックCD業界、とりわけ室内楽業界はメイジャーレーベルがどんどん撤退し、今や残っているのはDGのハーゲンとエマーソンくらい。「レコード芸術」誌年末のレコードアカデミー賞でも、室内楽部門はこのままでは審査対象となるCDがなくなってしまう、と冗談ではすまない乾いた笑い声があがる今日この頃。アルバン・ベルクQの後続と目され、いつメディア大攻勢に出るかと思われていた団体が、とうとうメイジャー街道へとやってきた。
個人的には5年遅かった、という気がするんだけど、ま、辣腕マネージャーのジメナウアー女史、粘りにねばってここまで持ってきましたね。おめでとうございます。

おそらく、これで日本でも「アルバン・ベルクQの後続はアルテミスQ」という空気が一気にできるのだろうなぁ。なんせヴァージンとはいえEMIレーベルだもの。正に後続じゃあないの。
でも、ベルチャQはどーなるんだろう。数ヶ月前に東京ドームホテルでインタビューしたときには、EMIと契約出来て超ラッキー、と凄く嬉しそうにしていたんだけど。ううううん。

なんにせよ、小生とすれば、1999年の拙著『クァルテットの名曲名演奏』で、「次世代のトップの座は確実」と断言しちゃって以降、「なかなか来ないなぁ、もうかつてのようなメディアを一気に支配するという方法は成り立たなくなったのかなぁ」と、絶対の本命馬券を推薦しながら外した競馬評論家のような気持ちになりかけていたんだもの。安心しました。
いくら国内最大手音楽事務所がマネージメントをしようが、録音メディアの助けがないと、聴衆ばかりか、地方主催団体にも売れないのが日本の市場の現実なのだ。いやホント。

で、小生がアルテミスQに始めて接した、1996年のミュンヘン・コンクールのメモをハードディスクの古文書倉庫から引っ張り出し、「へえ、あのときはたった5団体で優勝を出したのか。へえ、アルテミスって、その前の大阪国際を棄権してるのか。あ、あのときミュンヘンを棄権したアメリカの団体って、パシフィカQだったっけ。そうそう、ダネルQのヴィオラ交代騒動の噂を聞いたのはこのときだったなぁ…」などと、感慨に耽ったのでありますね。

ここで、客席にほんの数人しか人がいなかった一次予選から、満員の聴衆で溢れた(とはいえ、狭いアメリカ文化会館ですけど)本選まで、ミュンヘン・コンクールの会場で小生が付けていたアルテミスQの演奏に関するメモを大公開するぞぉ…などと思ったのだけど、やっぱりそれはいくらなんでもまずかろうなぁ。ブログでそこまで商売の手の内を明かす必要もあるまい。
で、同年末頃の「ストリング」誌(掲載号がいつか判らなくなってしまった)に掲載させていただいたミュンヘン・コンクールのレポート「28年振りの栄冠~第45回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門観戦記」の最後の部分を、そのまま抜粋して貼り付ける。もう10年近くも前の雑誌記事だから、問題はあるまい。全部読みたい方は、以のホームページから「レッスンの友社」に連絡して、バックナンバーを買ってください。よろしく。
http://www.lesson.co.jp/frames/f_string.html
記述の最後の部分、今も考えは変わっていない。でも、まさかコンクールというものの価値や評価がここまで落ちるとは、想像できませんでしたけどねぇ。

なお、アルテミスQのヴァイオリンふたりは、6月にイタリアのレッジョ・エミリアで開催されたパオロ・ボルチアーニ・コンクールに審査員として加わっていた。連日、プレス席から彼らの動きを眺めていたのだけど、ま、一言で言って、既に大家の風格でありました。おまけに、ヨーロッパ弦楽四重奏業界のドン、ジメナウアー女史とコンクール真っ最中の劇場でなにやら語り合う、最近のアルテミスQのヴァイオリンふたりのお姿をどうぞ。権利関係が怖いので、うしろ姿でお許しを。

「リュベックの男性3人と、ロシアから来た女性によるアルテミスQは、第1と第2ヴァイオリンを交換する。昨年のエヴィアンでは、ヘンシェルやダネルに次ぐ第3位だった彼等、5月の大阪にも参加を申し込みながら欠場し、ミュンヘンに備えたようだ。若いのに、音楽のドラマ性を演出する技量は大したもの。近代中欧ものでは、彼等のレパートリーにあるだろうシューマンやブラームスの語法で処理が可能なツェムリンスキーの第1番を選び、己の手中に曲を引き寄せて破綻なく処理していた。現時点での完成度は高く、5団体の中では地力で圧倒しているし、コンクールでの勝ち方や、聴衆の沸かせ方も良く心得ている(ロータスQにも見習って欲しいものである)。だが、新しい何かを感じさせないのがちょっと物足りない。ヴァイオリンの交換も、それぞれが個性的だけに、余りにも団体の性格を変えてしまう。その辺りに足をすくわれなければ良いのだが。

 さて、結果です。本選終了後、審査員団の協議が30分ほど続く。と、所在なげに待つ本選参加2団体が、審査員控え室へと呼ばれる。暫くして中から拍手。アルテミスQの実力を疑う者はないが、決して芳しくはなかった本選の出来からして、ロビーでの品評会では彼等の1位無し2位という主張が最高位。本選に進めなかった参加者を含め、聴衆雀の空気は、アルテミスの1、2位なしの3位というところに落ち着きつつある。「ミュンヘンの厳しさ」を、聴衆は誰よりも強く意識しているのだ。
 やがて秘書女史がロビーに登場、「優勝アルテミス、第3位カスタニエリ」と叫ぶ。どよめき。何しろ東京クァルテット以来28年間、一度として優勝を出していないのだ。驚天動地の瞬間である。
 最初の驚きが過ぎるや、北ドイツ人らしく巨人揃いのアルテミスQメンバーが、喜びを顕に、家族や友人と抱き合っている。聴衆も、ロータスQの面々も、みんなアルテミスQの優勝を祝福していた。驚愕の瞬間ではなく、歴史的瞬間であるべきなのだ。彼等が素晴らしい実力を持った団体であることは疑いない。だが、願わくば、この先に彼等に被せられるであろう「ミュンヘン・コンクール東京Q以来28年ぶりの優勝」という安易なキャッチコピーが、彼等のキャリアにとって余計な重荷となりませぬように。
 皮肉ではない。本当に心配なのである。」(括弧内1996年暮の「ストリング」誌より著者が抜粋)


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コメント 2

ku-ma

有難うございます。
貼り付けていただいた上に、若いなどと...
いろいろな意味でコワいのですが(そのままですから)。
でも、これでSQの聴き手(買い手?)の方が増えるとうれしいです。
by ku-ma (2005-08-12 00:01) 

ガーター亭亭主

パリでは10月になってようやくこのアルテミスのベートーヴェンのCDが店頭に並び始めました(クスのメンデルスゾーンはまだです)。

ところで、昨日、このカルテットを初体験するはずだったのに叶わなかった顛末についてのアーティクルをアップし、TBさせていただきましたので、ご連絡致します。
by ガーター亭亭主 (2005-10-31 20:51) 

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