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Takefuにて [音楽業界]

1990年頃から福井県は武生で町興し型音楽祭として開催されていた武生音楽祭は、21世紀初頭の今、日本で唯一の国際現代音楽祭として機能している。「ノーノの歌劇「プロメテウス」が上演できる劇場」なんてとてつもないコンセプトを実現した空間がある秋吉台で行われていた国際現代作曲セミナーが、日本では極めて珍しい行政と音楽家の間のすったもんだの挙げ句に音楽家が城を明け渡すことになり、北前船に帆をかけ日本海を北上、ここ福井は武生の地に新たな天国を発見するに到った経緯は、現代音楽や地方音楽祭に関心のある業界関係者にはつとに有名。日本では希なスポンサーとしての行政と音楽家の間の直接的な衝突だったので(演劇なんかでは珍しくないんですけどねぇ)、山口県のローカル行政欄を除けば殆ど報道されず、音楽マスコミはどう扱って良いか分からず完全に沈黙したので、音楽ファンにその経緯を知る者はほぼ皆無であろー。

ま、話が長くなるし、どこから抗議が飛んできて当私設電子壁新聞が廃止に追い込まれるとも限らないポリティカルで危険なネタなので、慎重に書いている暇がない今はやりません。いずれ、後世のジャーナリストか、文化行政の問題点を研究するアートマネージメント研究者さんがちゃんとやってくれることを期待しましょ。細川俊夫伝を書く者には不可欠な一章だろうし。

んで、ここ、武生である。堂々たる「地方から世界に向けて発信する」音楽祭である。なにせ、それこそヒンデミットなんぞがアマールQで「ミニマックス」なんぞアホやってた頃からの伝統あるドナウ・エッシンゲン音楽祭以来、「現代作品のセミナーと集中上演会」という音楽祭は、独仏圏を中心に沢山存在している。所謂現代音楽の展開、特に前衛系の作品の展開に於いて、現代音楽祭の果たした役割というのはきちんと誰かが論じるべき大きなテーマなのだ。
さても、ここ武生は、日本で唯一、世界の現代音楽祭ロースターに載り、機能している典型的な20世紀後半型現代音楽祭なのだ。忙しいので説明しないけど、ひとえに細川俊夫というヨーロッパの現代音楽業界の真っ直中でバリバリの現役をやってる音楽監督のお陰である。やってることは地味だけど、ある意味で、松本で制作したプロダクションが今もきっちりパリオペラ座のレパートリーとして維持されているサイトウキネンと同レベルのイベントなのである。

早い話、タケフという音楽祭は、日本国内よりも外国、特にヨーロッパ大陸系の現代音楽業界での方が、遙かに有名なのだ。逆に言えば、日本では現代音楽に関のある数百人のファン以外に殆ど誰も知らない、でも世界中に広く浅く散らばる現代音楽業界関係者はみんな知ってる、そんな音楽祭。

そんな事実と、地元の納税者市民の音楽文化活動とがどう関わるのか、頭がくるくるするような乖離っぷりを筆者なりに理解するのが今回の武生取材の目的なんですけど…全然、進んでません。なんせ作文原稿3本抱えてきた上に、昨日は富山県庁で「こしのくに音楽祭」の地元メディア向け記者会見と知事訪問なんてのがあって、それに日帰り。秋の大雨の北陸本線を行ったり来たりしてる。武生に泊まってるのに、ここに滞在した時間はどれだけかしら。本日これから、夕方のアルディッティQセミナーまでが勝負だなぁ。うううん。やばいぞ。

追記:今、宿の朝飯でアルディッティQの新チェロ君とちょっと話をしました。本質的なことじゃありません。「ヒースローから楽器持って飛べたの」という時事ネタ。結論は、「いや、ヒースローはチェロを持ち込めないので、パリから来た」とのことでした。一緒に飯喰ってた現代アンサンブルのヴァイオリン君だかは、「そりゃ重要な情報だ、来月、ロンドンに行かなきゃならんのだよなぁ」、「それなら列車の方が良い」、あれこれあれこれ。いかにもあちこちから音楽家が群れて集まる音楽祭っぽい、武生の朝の会話でありました。

                             ※

実態がどうあれ、日本海から一山越えた川沿いの筋に広がった狭い平野の街、まるでイタリアはジェノヴァのような風貌のこの古い街の夜には、確かに現代音楽が流れている。

晩の7時を過ぎると、市内商店街の交差点が黄色と赤の点滅になってしまうような「ファウスト風土」化され空洞化した地方都市中心部の夜は、文字通りの無人街。パリ管副コンマスでこの前までディオティマQ第1ヴァイオリンを務めていた千々岩英一氏が、なんとなんと今井信子さんと共演するモーツァルトの協奏交響曲(!!)を堪能し、誰もいない商店街を抜け、駅前の唯一のビジネスホテルまで戻る。越前市民文化センター(いずこも同じ、市町村合併で武生市は越前市になりました)から市中心のシャッターが閉まった目抜き通りを歩いていると…JR駅から真っ直ぐ神社まで伸びる通りに曲がる辺りから、ピアノとヴァイオリンの合奏の音。誰もいない深夜の駅前商店街に、いかにもゲンダイオンガクでござい、という微分音とグリッサンドの不安定なメロディが鳴っている。

本屋の隣、何の店だろう、そこだけに煌々と灯りが点り、中でピアニストとヴァイオリニストが楽譜にとっくんでいるのが丸見え。作曲家らしい輩もおり、間に割って入って楽譜を指さしては口をとんがらかしている。どうやらセミナーの学生作曲家が、発表会に向けて、深夜まで演奏者の練習に延々付き合っているようなのだ。別に世間様にそんな姿を見せているわけではなかろうが、ピアノが置かれたガラス張りのレトロお洒落なレストランだかなんだのフロアで行われている若者達のやりとりは、音を含め、周囲に丸見えである。かくて、深夜の武生の街に、典型的な現代音楽の断片がいつ果てるともなく鳴り響く。

通りを進んだ角に、珍しくも深夜までやってるスナックがある。カラオケの熱唱が、これまた誰もいない街に壮大に漏れている。

車も通らない赤信号で、ドイツ人のように真面目に真面目に立ち止まっていると、後ろからのヴァイオリンの素っ頓狂なグリッサンド。右からの音程とっぱずれた演歌の熱唱。風の音の中にに混じり合い、とってもアイヴスちっくなサウンドスケープ。

確かにここ武生では、街に現代音楽が流れている。それと市民がどう関わるっているのか、ちーっともわかんないけど。

カラオケに 微分音降る 無人街


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