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《演じる女たち》見物予定の方へのお節介 [閑話]

カテゴリー分類が判らぬので、「閑話」にします。「アートなこと」とか「東京日和下駄」とか、いろいろカテゴリーを作ろうかとも思うのだが、間口を広げるとそれこそいくらでもネタがありすぎて収拾が付かなくなるんで、敢えてやりません。

さても、昨日、国際交流基金さんのご厚意により、ウズベク・イラン・インドの演出家と劇団がギリシャ古典のミュートスを再構築した演劇《演じる女たち》を見物させていただきました。アートマネージメント関係の知り合い、演劇界の有名人なんぞゾロゾロいるような場所で、あたしゃこんなところに座ってて良いのかぁ、という感じでしたけど。http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/archive/20071005

で、感想というよりも、本日夕方及び明日の2公演を見物に行く予定の方のために、ちょっとだけ「観る前に知っておいた方が良いこと、便利なこと」を列挙します。ご参考にどうぞ。ま、当電子壁新聞の読者層とは大きく異なるでしょうから、殆ど役に立つ方はいないでしょうが。

①これは「ギリシャ悲劇」ではありません。ギリシャ悲劇の物語素を利用した再創造です。一番近い言い方をすれば、「スタートレックの世界を下敷きにマニアが作ったヴィデオ作品」とか「コミケで売ってる銀河英雄伝説のやおい漫画」とか「プロが闇で書いちゃったドラえもん最終回」なんかに近い、二次創作です。間違っても「ギリシャ悲劇」と思って行かないように。

②なにしろいろんな要素がゴッチャごちゃに突っ込んである今時の舞台ですので、細部に惑わされると足をすくわれます(特に3作目、「ヘレナ」の巻は、それこそコンヴィチュニーのオペラ演出なんぞと同じようなもんです)。とはいうものの、神話素(ミュートス)としてのメデア、イオカステ、ヘレナなどについて知らないと、何が何だか全然判りません。配られるでっかいプログラムにも、そんな神話素の解説など一言もありません。ですから、慌てて勉強していくこと。
今からでも遅くないですから、エウリピデス「メデア」(マリア・カラスが主演した同名のギリシャ映画でもOK)、ソフォクレス「オイディプス王」、ハリウッド映画「トロイ」くらいは眺めておいた方が良いでしょう。「へレナ」と題されるものの、そっちもそうだけど、エレクトラ主題が判らないとなにやってるか判らない部分があります。アイスキュロスのアガメムノン3部作を知っておけば良いにこしたことはない。とはいえ、「エウメニデス」的な明快な結末はありませんので、そのつもりで。

最初のウズベク「メデア」は、想像した以上に真っ正面なもので、凄く力がある舞台でした。シュトラウスの「エレクトラ」の演出家で困ってる劇場支配人がいたら、この演出家さんを是非とも起用して下さい。中規模の劇場なら、このチームでまんまやれます。上演の最初から最後まで、小生の頭ん中には♪あがめえええええむのおおおおおおおおん!という「エレクトラ」冒頭と終幕が響きっぱなしでした。
イランの「イオカステ」は、ソフォクレスの流れで言えば、伝令が来てオラクラの意味がイオカステに判り、部屋に戻ってしまい、やがてオイディプスの前にイオカステ自害の報告が来るまでの間の、全てを悟ったイオカステの意識の流れ、みたいなもんです。オイディプスが神々を呪うと天から大量の割り箸(?)が降ってくる意味も、その後のオイディプスが眼を突く話の流れを知らんと何が何だか判らないでしょう(冒頭に騒々しい歌で「見るは知る」なんていかにもスフィンクス的な妙てけれんな日本語の歌が流れてたから、判る人には判る筈)。
インドの「ヘレナ」は、大爆笑してあげないと役者が可哀想なシーンがいっぱいあるのに、なんかお客さんみんな真面目でしたねぇ。特に後半の大ギリシャ帝国の支配者となったオレステスの大演説は、腹を抱えて大爆笑してあげないと可哀想です。

というわけで、今からでは遅すぎる《演じる女たち》鑑賞前の泥縄ガイドでした。この作品、このようなガイドが必要だという事実からして、はっきり「クラシック」ですな。いやはや。


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すみこ

ロシア人はプーシキンの詩の美しさを褒め讃え、翻訳では絶対に伝わらん、
と言う。パパがソルボンヌのギリシャ古典の権威だという友人はやっぱり
原文で読まなきゃ素晴らしさがわからないわねーと言う。フランス人が
俳句だ俳句だといってもてはやしても、仏訳はどうももたもたと説明的
になってリズムが出ないし、やっぱり原語じゃないとだめなのかねーと
なんとなく諦めて読めないでいます。絵画が好きなので神話の方は知らないと
話にならなくて読んでみたけど、あとホメロスは日本語で読みましたが、
やくぺん先生が絶対お勧め!というギリシャ悲劇があったら教えていただけ
ますか?家にはEschyle(今調べたらアイスキュロスというらしい。。。
エシールとは大違いですね)とSophocleがあります。
だんながファンですが、私は読んでないんです。。。
by すみこ (2007-10-07 16:57) 

Yakupen

年末にパリに行く予定が、急に今月中にミュンヘンに行くことになってしまい、また暫くお会いできそうもありません。残念です。

さても、ギリシャ悲劇についてですが、小生は学部時代の主専攻が西洋古典、副専攻が音楽でありまして、音楽の大家K先生には「来るな」と言われたというオソロシイ事実があります。それはさておき…

ギリシャ悲劇、と日本語で言われている作品は、無論、総合演劇の台本です。多くの作品が失われ、20数世紀に亘って生き延びているのは日本語上下二段の全集にして5冊分くらいです。
三大作家が、アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス。時代的にもこの順番。アイスキュロスは最も古典的で、殆ど「能」に近いかも。ソフォクレスは最もバランスが取れていて、正に古典中の古典。で、エウリピデスというのはアテネ最盛期も終わりの時代で、かなり崩れているというか、前の古典があることを前提にした再解釈になってます。同じ神話素をそれぞれの作家が扱ってる事も多いです。比喩的に言えば、アイスキュロスがハイドン、ソフォクレスがベートーヴェン、エウリピデスがシューベルトとかベルリオーズとか、って感じ。一番取っ付きやすいのはソフォクレスです。エウリピデスは、ある意味、極めて今風なところもあります。あたしは嫌いですけど。

是非一冊ということならば、やっぱり作品としての完成度の高さから、ソフォクレスの「オイディプス王」が頂点でしょう。まるで2時間推理ドラマみたいなハラハラ展開でもありますし。ちなみにその続編の「コロヌスのオイディプス」は、古代ギリシャの「パルシファル」みたいな不思議と静謐な世界になってます。

というわけで、お節介第2弾でした。
by Yakupen (2007-10-07 18:49) 

すみこ

感謝感激であります!なんか一塊に闇の中だった部分が
魅力的な光で照らし出された感じで、さっそく本を引っ張り出して
見れば「オイディプス王」は70ページ程度なんですね。すぐ
読んでみます。もっと長いのかと思ってた。確かコンクールで
競い合っていたというのを読んだ事があるので、長さにも規定が
あったのかな?音楽の世界との比較がとても面白くてわかりやすかった
けど、本当にジャンルや時代を越えて線で繋がってる人達っていますよね。
能に近いアイスキュロスというのもとても気になるし。これを機に
少し腰を据えて読めたら嬉しいです。Merci beaucoup!!
by すみこ (2007-10-08 01:47) 

すみこ

昨晩「オイディプス王」読みました。いやーすごかった。
知らないでやったことが全部裏目に出て、運命に翻弄されてしまう。
とても形式的で、合唱(?コロス?フランス語ではle choeur)が出て
くる事で個人的なてんやわんやからすっと距離が取れたり、合唱隊の
リーダー(corypheeって書いてある)らしき無名の人物が劇の進行に
大いに関わったり。。。構成的に能にも移しやすいでしょうね。
今年沖縄で見た狂言ーべケットというのはちょっと???でしたが。。。
他の作品も読んでみます!
by すみこ (2007-10-08 15:53) 

Yakupen

ギリシャ悲劇の構造で、コロスは決定的な役割を果たしています。アイスキュロスからエウリピデスに至る歴史の中でのコロスの役割の変化は、きっちりした論文がいくつも書かれています。そういう視点で眺めてみると、極めて面白いですよ。
なお、古代ギリシャの音楽、という題の音はいくつかCDでも出ていますが、どれも嘘っぱちですから、騙されないでください。完全な音楽劇だった筈なんですけど、音楽面はまるで判っていません。なんせ20数世紀前の創作ですから、それが個人名と共に遺ってるなんてことの方が奇跡的なんでしょうけど。
蛇足を加えれば、古代ギリシャ語(現代ギリシャ語とは違います)のアクセントでテキストを詠んでいくと、はっきりと音楽的な流れはあります。お経みたいなもんですけどね。
以上、お節介の続きでした。
by Yakupen (2007-10-08 17:21) 

Yakupen

お節介ついでに、さて次に何を読めば良いか、の無責任なヒント。普通は、エウリピデスの「メデア」なんぞを読め、というところでしょうが、敢えてアイスキュロスのアガメムノン三部作に挑戦してはいかがでしょうか。
ストーリーテリングの面白さや巧みさは、ソフォクレスやエウリピデスに遠く及びませんけど、最後の「エウメニデス」で復讐の連鎖が終わるあり方に納得できるかどうかは、「古代ギリシャ世界」を受け入れられるかどうかのメルクマールになる作品です。あれが納得できれば、貴方は21世紀に生きる古代ギリシャの魂を持った人間です。裏を返せば、古代ギリシャの世界と我々の世界の本質的な違いを見せつけられる、とも言えましょう。なんせ、あの部分だけは、ルネサンス以降の錚々たる創作者たちも、だーれも再創造出来てませんから。
by Yakupen (2007-10-08 17:27) 

すみこ

ふーむー。。。何やら決定的な通過儀式的な関門があるようですね。
こんなにコメントを下さってると知らずに、大体本は普通は始めから
読む事が多いので、真中にあったオイディプス王から冒頭に戻って
解説の”ギリシャ悲劇を我々の古典演劇の常識で扱うのをやめてから、
その宗教的性格を語るのが一般的になってきた。その起源から言って
ギリシャ悲劇は宗教的である”なんてとこを読んでいたとこでした。
歴史的な事、背景、上演形式など知れば知る程親しみが湧くでしょうが、
作品を読むのがうんと先になってもつまらない。
アガメ厶ノン3部作というのはl'Orestie(Agamemnon,Les Choephores,
Les Eumenides)ですね。がんばります!沢山の手引きを有難うございます!
by すみこ (2007-10-09 00:40) 

Yakupen

チェーンメール状態で、なんかちょっと恥ずかしいんですけど…

なんのことはない、「ギリシャ悲劇」を古代ギリシャのコンテクストの中で理解しようとする研究者的な捉え方と、あくまでも現代に再創造するためのテキストと割り切って誤解・曲解なんぞ怖れずにどんどん読んでしまえという考え方がある、ということです。

本気で古代ギリシャの宇宙観、宗教観を知りたいと思うと、やっぱり、極めて我々とは異質な世界であるという思いが深くなるだけです。そうなったときに、テキストを前にどうするか、ということ。これって、ある意味で、クラシック音楽で現在大流行の「ピリオド楽器」とか「オリジナル奏法」の問題と同じです。クラシック音楽では、せいぜいが数世紀昔のことで、伝統が繋がってる場所でもありますから、議論もやれますが、25世紀も昔のこととなるとねぇ。

というわけで、ともかく、オレステスのシリーズを頑張ってお読みください。ちょっと飽きるかもしれませんけど。
by Yakupen (2007-10-09 01:39) 

すみこ

もうこれでやめますのでお許しを。
さっきメトロの中でアガメムノン読み始めていきなり4ページにも
わたってコロスがあーだこーだ言う所がさっぱり解らずめげました。
何の話?いつの話?誰の話?ってな感じで。。。
でも奥さん(クリテムさん)が出てきて話が進みそうで、とにかく
がんばって読み通す!つもりであります。無学すぎて背景をチェック
しだしたらきっといつになっても終らないから。。。
by すみこ (2007-10-09 06:18) 

Minochan

むかーし、「オイディプス王」の魅力に惹かれ、ギリシャ悲劇を読み出した頃、アイスキュロスに至って、「????」をいっぱい飛ばしたことを思い出します。
めげないでくださいませ。その先には、ちょっと別の見晴らしの世界があります。それを見ることが出来るだけでも、「????」の苦労は報われます。

なんだか、宗教勧誘みたいだなぁ。

今では結構アイスキュロスの「オレステイア」(アガメムノンから始まる三部作)が好きですよ。

そうそう、ちなみにあのDuneに出てくるDuke Letoは、アトレイデ家の人、ですが、このアトレイデというのは、アガメムノンの家系アトレウス家のこと。
こんなところにも、ギリシャ悲劇は「再創作」の種になっておりまする。
by Minochan (2007-10-09 09:42) 

すみこ

禁を破ってもう一言。。。
Minoさんまでコメントを。。。有難うございます!!がんばるぞー。
ギリシャは知ってても知らなくても日常生活に顔を出して
いて、complexe d'Oedipe=マザコンなんてよく使うけど、
惑星の名は勿論、水銀=メルキュールだし、ベースなんだなー
と思います。ローマ経由のものの方が多いかもだけど。
キリスト教もそうですが好嫌いに関わらず少しは
知っていた方が便利だろうと思われます。好きになれたらもっと
嬉しいけど。お忙しい所お騒がせしてごめんなさい。Bon voyage.
by すみこ (2007-10-09 15:25) 

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