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「全曲演奏」の並べ方 [弦楽四重奏]

いよいよ6月東京室内楽祭が始まってしまい、ヘンシェルQがミュンヘンに戻るまで殆ど作文作業はストップ。分かっていたとは言え、まるで予定が消化出来ていない。やばいぞ、あたし!それにしても、ヴィエナ・ゾリステンなんてメイジャーな団体なのに、初期のアマデオ時代のLPのきちんとしたデータがこれほど出てこないとは思わなかった。「書いてあることは嘘ばかり」じゃない原稿を作るのはなんと手間取ることかっ。

んで、昨晩、室内楽祭のトップを切ったのは、若い世代のシューマン巧者の奈良希愛さんが、これまた若い(ってか、中堅だなぁ、そろそろ)千葉の期待の星、瀬崎明日香嬢(で、良いんでしょうかね)及び今や若い世代のチェロ界の豊嶋、ってか、そんなポジショニングの上森祥平氏と組んだ、シューマンのピアノ三重奏全曲演奏でありました。一晩明けても、ああ疲れた、って感じですね。

この演奏会、まず話を聞いたときに思ったのは、「演奏順はどうするのかなぁ」でした。シューマンのトリオをご存じの方はお判りだと思いますけど、まあぶっちゃけ、普通に考えて、作曲順の1,2,3番ってやるのはなかなかシンドイ。主催者さんに「どうするの」と訊ねたら、「奈良さんも悩んでるみたいです」って。
で、最終的に昨晩の演奏会、当日配布のプログラムの頭に奈良さんが「悩んだけど、全曲ベストの集中力で弾けるように」との理由で、2,3,1番の順で演奏すると宣言されておりましたわ。

なーるほどね。

シューマンのトリオって、ニ短調の1番が飛び抜けて有名で、まあ、みんな弾きます。特に終楽章は、シューマンの売れ筋室内楽の典型、ピアノ四重奏や五重奏にも似たシューマンチックな盛り上がりがあり、メンデルスゾーン的な旋律の扱い方もあるし、素直で誰もが納得いく終楽章になってる。ピアノ三重奏の演奏会で、メンデルスゾーンのニ短調やら「大公」やらを弾いた後に、アンコールで披露されることも屡々な超有名曲です。でも、2番、特に3番は、いかにも晩年のシューマンらしいもの凄く複雑な(作りが、ってよりも、中身が、って感じ)音楽で、最後も一生懸命盛り上げて終わろうとするのだが、どうにも「腑に落ちた」って感じはない。ひとつの演奏会がこれで終わるのは、弾く側の気持ちの持って行き方も難しいし、聴く側もちょっと座りが悪い。

「全曲演奏」の場合、この座りの悪さ、創作順に弾いていって弾く側も聴衆も感じるこの違和感こそが大事なのだ、という考え方もあるわけですね。

その意味で、昨晩は悩んだ挙げ句に一晩の演奏会としての素直な気持ちの流れに従った、ってこと。これはこれであり。だって、あの終楽章を歌いながらおうちに向かって駅まで歩けるものね。週の真ん中の夜、明日も朝からガッツリ働かねばならぬ、ってときなんだから、こうでなきゃ困るでしょー。もしも土曜日の夕方かなんかで、家に戻ってからいっぱいやりながらシューマンの伝記でも引っ張りだし、うううんこういう人生だったのかなどと考え込み、翌日は朝から鬱々とした気分になっていても良いのならば、また別の並べ方もあるだろうけどさ。

ライブというのはCDやストリーミングとは違う、ってこと。

さても、明日からはヘンシェルQがベートーヴェンの弦楽四重奏全曲をやるぞ。ベートーヴェンの弦楽四重奏こそ、全曲をやるときの並べ方が極めて興味深い筆頭格。まずは何回でやるかから始まり、ひとつひとつの演奏会を完結したものと考えて並べるか(幸いにも、ベートーヴェンの場合、それなりに巧い具合に「初期+中期+後期」で6回の演奏会がつくれるようになっている)、作品番号順にやるか、はたまた編年体でやるか。後期を「作品127+巨大多楽章作品群+作品135」という一昔前(敢えて、最大の敬意を以て「吉田秀和時代の」と申しましょう)の捉え方をするか、「ガリツィン・セット+アペンディックスの己の創作のレジュメとしての作品131+再出発としての作品135」という最近出てきた捉え方をするか。そしてなにより問題なのは、作品130終楽章と「大フーガ」の扱い。作品14問題もあるし。

今回、ヘンシェルQが出してきた回答は、ちょっとなかったものです。ちなみに来年の同プロジェクトで予定されている団体は、もっとビックリするようなやり方を考えてるみたい。

さあ、東京室内楽祭、ひとつ聴いてもみんな聴いてもあら楽し。マニア様もあまり馴染みのない方も、都内あちこちの会場へどうぞ。なお、あと1時間ちょっとで日比谷第一生命館1階ロビーで日本初見参のアマリリスQが弦楽四重奏週間オープニングの無料コンサートをやります。
http://www.triton-arts.net/ja/community/2012/700/
お暇じゃなくてもどーぞ。

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