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ザルツ山頂で「4’33”」を聴く [Music in Museum]

そもそもは、ルール・トリエンナーレで上演されているケージの「ユーロペラ1&2」を見物するつもりでした。でも、流石に籠の百年祭とあってか、もの凄い人気で瞬く間に売り切れてしまったようで、今回のツアー日程を決めてる頃にはもう切符なんて全然なかった。で、昨日は予備日になってしまい、しょーがないからザルツの宿が存外安かったんでもう1日滞在し、ツィメルマン独奏のルトスワフスキの協奏曲でも聴いていくか、€70の切符ならまだあるしさ、それにしても、これ、クリーブランドだったら真ん中よりは上の席だよなぁ。

んで、このルトスワフスキに関して言えば、いきなりメスト御大が舞台でマイク持って「今朝、ツィメルマン氏から病気でザルツに行けないという連絡がありました…」ってことになり、先週にルツェルンで初演されたばかりのドイツの若手作曲家、ミヒャエル・ピンチャーの2台トランペットの協奏作品になったりして、このところシュトックハウゼンとかB.A.ツィンマーマンとか、はたまたこの昼のケージとか、20世紀後半の超大物のトンデモナイ化け物作品ばかり聴いてきた耳には、久しぶりに懐かしくもちんまりと業界内にまとまった現代音楽に戻ってきたなぁ、なんて失礼この上ない感想を抱いたりしたわけだが、ま、それはそれ。

ええ、昨日のハイライトは、失礼ながら音楽祭に客演したクリーブランド管弦楽団ではなく、祝祭大劇場の岩山がザルザッハー川に迫る東の端っこから有料エレベーター(昔はオーストリア国鉄がやってたけど、やたらと綺麗になった今はどうなってるのかしら)で登ったところ、風光明媚な山々や緩やかな丘を眺める山の上にあるザルツブルク現代美術館にありました。ほれ、左手奥に見えるのが、ザルツブルク城です。
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今、特別展として「ジョン・ケージと…」という出し物をやってます。ちょっと前までベルリンでやってて、ベルリンは明日から音楽週間で、今年のテーマは「アメリカ音楽」。ケージはメインの作家なんだけど、なぜか展覧会はもうザルツに移っちゃってる。ここでは10月までやってるみたい。
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さてもこのケージ回顧展、なんで美術館でやるの、って思うでしょ。でも、来れば判る!なーるほど、って思います。

まずエレベーターで最上階まで上がると、ケージ初期から晩年に至るまでの楽譜がテーマ。ケージの楽譜のほぼ全ては、所謂「図形楽譜」とか「図像楽譜」って呼ばれる類なのは皆々様ご存じの通り。よーするに、普通の意味での五線譜でもネウマ譜でも日本伝統音楽の譜面でもなく、なんかそれらしい絵、ってのがケージの作曲家としてのお仕事なわけですな。
で、それら図形楽譜は、実はネタがある、ほーらごらんなさい、この作家のこの作品と並べると、どっちが抽象絵画でどっちがケージの楽譜か判らないでしょ、って展示がしてあるんですわ。

悪意すら感じる展示の仕方は、みんな腹の中ではそう思っててもケージ様の創作の貴重さをおもんばかるにオソロしくてとてもやれない、蛮行ギリギリの作業ですわ。線がのたくったみたいな楽譜は、ほらこの作家の作品と全然同じでしょ、点が打ってあるような楽譜も、ご覧なさい、この庭園の空間配置をまんま上からみただけじゃーないの(無論、「Ryuanji」ですけど)、この細長くかすれた線で描かれた楽譜だって、ほーらこの掛け軸そっくりじゃないかい。皆さん、これがケージのZENの世界なんだよ、とまでは言わぬものの、ほぼそれに近い展示もありましたね。

ああああ、やっちゃったぁああああ!でもやっぱ、天国のケージ御大はこの展示会を見下ろしながらニヤニヤして、照れ隠しにキノコ磨いてるんじゃないかな。そんな間にも、展示の繋ぎの空間などでは、ケージのチャンスオペレーション作品が会場のあちこちで上演されています。

さて、下の階に降りましょう。ずらりとヴィデオモニターが並び、マーク・カニンガムとケージのコラボレーションがヴィデオで眺められるようになってます。奥にはカニンガムのドローイングとか、舞踏譜なんかも。ダヴィッド・テュードアは随分深く関わってたんだなぁ、なんてあらためて思ったり。ヨーコ・オノの名前もいっぱい見えます。この階のハイライトは、やっぱり「33と1/3」。ほれ。
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名ばかり有名な作品(ってか、ケージの作品の9割がそうだけどさ)の実演です。
ご覧のように、レコードプレーヤーを1ダースくらい並べて、一斉に勝手にかける、ってだけ。どうやら最初は見物人に勝手にやらせていたようだけど、いまやレコードの扱いを知らない人が多くて事故が絶えなかったようで、スタッフしか触っちゃいけない展示になっちゃったようです。女の子がつまらなそーな顔をして、ひとりであちこち動いてはLPをかけかえていました。

もうひとつ下の階にいくと、「と…」が中心の展示になります。ケージのいろんなアイデアにインスパイアされた作家たちの創作やインスタレーションが並べられる。ケージが創作したやり方をその場であなたもやってみられます、なんてコーナーもあって、お嬢さんがひとり、もくもくとルーレットまわしては何や紙の上にべったり塗りつけたりりしてました。「4'33"」のオリジナル楽譜、なんてもんが額に入れて掲げてあったんだけど、どーゆーことなのかしら。これ、ギャクかいな。

映像作品もいろいろある中に、「4分33秒を2回演奏する」という作品もあった。一部屋、真っ暗にして、この映像が延々とまわってる。
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映像は誰もが想像するとおり、ブリュッセルの小さな会場にピアノ置いて、聴衆を2ダースくらい座らせて、ピアニストがこの20世紀で最も有名なピアノ曲のひとつを2回繰り返し演奏する様子を延々と撮っている。最初はピアニストに視点据え置き。楽章毎にタイムキープのマシンをガチャンと押すだけが動きです。で、拍手があって、2回目はずーっと聴衆を舐めて、最後は寒そうな冬のブリュッセルの風景が窓から見えるのを延々と流している。聴衆の中には、「ゲンダイオンガク」演奏会には絶対にいなければならぬ黒い服を着た長い髪の日本美女もちゃんといます。監督、判ってるじゃないのぉ。小生の理想とすれば、ケージのこの音楽に最も似合う聴衆はハイライト咥えた浜離宮朝日ホールのCプロデューサーなんだけど、ま、そんな雰囲気の美女だったから許してやろー。美女観たさに3回観ちゃったぞ。

残念ながらミュージアムショップではカタログが売り切れ。9月になれば入荷するよ、なんてオジサンに気楽にいわれた。あたしゃもうその頃にはここにはおりませんっ!

以上、現在ヨーロッパを巡回中のケージ展のご報告。カタログが手元にないのでこの先にどこを巡回するか知りません。御関心の向きは、”John Cage und…”でググってみて下さいな。

さて、そろそろザルツ空港に向かいましょ。エアベルリンは今やLCCに思えないんで、なんか緊張感がないなぁ。

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