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コロナに負けるな《ヴォツェック》三昧 [パンデミックな日々]

昨日、週末に佃の塒に週末で帰宅する京成電車、都営地下鉄浅草線、大江戸線、全体にずいぶんと乗客の数が増えており、浅草駅に人がいるのを久しぶりに眺めました。流石にみんなもうおうちに居るのがしんどくなってきたのかしら。

とはいえ、我が人の良さと御上への従順さだけが取り柄の業界、226アベ要請からの劇場音楽堂閉鎖を続け、先週くらいからなんとか再開に向けた動きは出ているもののまだ今月はとても無理。まだまだ続く「おうちで〇〇三昧」の日々でありまする。

欧州各地の主要劇場や楽団では、まさかここまで長引くとは思わずに、そろそろ自前の無料提供出来るソフトが底を打ってきたところもあるようです。権利関係が2ヶ月で切れてしまい…なんてリリースも某欧州メイジャー歌劇場広報さんから先週来ました。

そんななか、先週からこの週末にかけて、3つの歌劇場がそれぞれに力の入った演出で《ヴォツェック》を無料配信して下さるというオソロシーことが起きておりました。これがまた、それぞれの劇場のキャラクターをよく著したものとなっておりましたです。

まずはもう配信は終わってしまったアムステルダムの運河の畔の歌劇場でオランダ国立歌劇場が出したもの。3年くらい前のプレミアで、しっかりDVDパッケージにもなっております。こちら。
https://news.imz.at/music-dance-releases/news/dvd-blu-ray-berg-wozzeck-dutch-national-opera-4452954/
これ、今週の3本の中ではいちばん面倒くさいというか、いろいろと手が加わっているプロダクションで、いかにもこの劇場らしいなぁ、と思わせてくれます。演出のヴァリコフスキは、この「読み替え」がほぼ不可能というか、そんなことしてもさほど意味がありそうもない作品に敢えて大きく手を加えてます。

要はビュヒナーが『ヴォイツェック』断片を遺すに至ったライプツィヒでのオリジナルの事件に話を戻した、ってこと。ヴォツェックは現役の兵隊ではなく床屋かなんかになっていて、軍隊の暴力性の問題は全く表に出て来ません。ヴォツェックが沼に溺れて死ぬ場面もありません(なんせ史実では延々と数年に亘る裁判があって、最後は公開処刑になったわけですから)。なによりも大きな「読み替え」は、ヴォツェックとマリーの息子が実質上の主人公で、枠取りの子どもだけの舞踏シーンとか、幕の前に息子が朗読する場面が加わったりとか。

いちど映像でざっと眺めた限り、こういうやり方があるかぁ、と納得する演出家とプロダクションの力は判る。でも、確かにこの話はこれじゃなきゃダメだ、という気はしない。ぶっちゃけ、こんなことする必要あるかぁ、と思わないでも無かったです。最初に観るにはお薦め出来ないけど、この作品を観尽くしている方には大いに興味深い舞台だなぁ、と思わされました。

続いて、週の中頃に一日だけツルッと放送された、リンデン・オパーのシェロー演出バレンボイム指揮の舞台。90年代から定番の演出&演奏で、DVDもありますな。あ、日本語ではないのかしら。
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AF-%E6%AD%8C%E5%8A%87%E3%80%8A%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%84%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%80%8B%E5%85%A8%E6%9B%B2-DVD-%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%98%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC-%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%84/dp/B000T42Z46
この演出家らしいきちんと歌手に演技が入った細かい舞台で、この作品の演出上の最大の問題たる場面転換も簡素な舞台と照明の当て方で処理している、極めてまともな舞台。ある意味、同じ頃のアバド&ヴィーン国立歌劇場の映像と並び、20世紀末から今世紀初頭のスタンダードな舞台でしょう。ただ、映像収録がもうちょっとなんとかならなかったかなぁ、と思ってしまう部分もありますね。音楽は…やくぺん先生はバレンボイム大先生はいまひとつ得意ではなく、数年前にベルリンのシラー・シアターの方で観た《ルル》は、正直、やっぱダメだなぁと感じざるを得なかった。だけどまあ、《ヴォツェック》はなんとか許容量かな。シュターツかペレ・ベルリンも、まだ旧東独スゥイトナー時代の音が残ってる、とまでは言わないけど、洗練されすぎてないし。

で、もうひとつは、本日眺めさせていただいた、チューリッヒ歌劇場の舞台であります。これはまだ月曜日くらいまで観られるので、こちらからどうぞ。数年前の演出。
https://www.opernhaus.ch/en/spielplan/streaming/wozzeck/
これもパッケージ映像は既にあるようですし、それを流しているのかな、この無料時間限定放映にも日本語字幕が付いてます。画面右下の赤いCCというところをポチョっと押すと、数カ国語の字幕が選べるようになってますので、あまりこの作品をご存じない方も安心です。

演出はベルリンのコミーシュオパーのトップをやっていたホモキ御大、現役バリバリの大物ですね。中身は、ご覧になって判るように、舞台にいくつもの入れ子になった枠を作り、その枠を使って展開されます。アプローチはまともですが、1幕3場のマリーが登場するところから、マリーとヴォツェックの子どもが人形で表現されていることからも判るように、ヴァリコフスキのような「子どもの物語にしてしまう」みたいな強引な力業はやってません。あくまでもヴォツェックの悲劇で、舞台全体が狂気のヴォツェックが眺める世界のようになってます。些か抽象的な部分もあるので、この話をまるで知らないとわかりにくいところもあるかもなぁ。でも、オペラというのは何も知らずに観に来るものではないと割り切れば、それほど無茶ではありません。音楽も妙にお馴染みのルイージ様ですから、安心といえば安心。

そんなこんな、20世紀末のスタンダード映像を挟み、21世紀10年代のふたつのそれなりに欧州最前線のバリバリの演出が眺めれたわけです。初台でこの作品を眺めれば、あのミュンヘンから持ってきた演出に限れば、東京が世界の舞台創作の中でどういう位置付けかも見えるであろう有り難い一週間でありましたとさ。

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