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音楽祭の孫がゆふいんに戻る [ゆふいん音楽祭]

コロナも落ち着いたわけではない中に、全人類を滅ぼせる量の核兵器を運用する超大国が正規軍で隣国に武力侵略するという、もうこの世の中はどうなっちゃってるのか訳が分からんぐちゃぐちゃな2022年の春のお彼岸、ニッポン国キューシュー島北東部標高450メートルの盆地も春うらうらというわけにはいかず、数日前までの一気に春になった陽気が一転、冷たい雨でも落ちてきそうな曇り空。一斉に咲いちゃった菜の花やら、ちょっと早めに辿り付いちゃったツバメさん達も、なんだかどうしていいか困ったような陽気に、卒業旅行とやらの若い人たちの姿ばかりが駅前に目立っておりまする。亀の井バスのオジサンおねーさんらは、久しぶりの大忙しに殺気だった表情、ううううむ、みんな忙しがり方を忘れちゃったのかしら。

そんな不思議な春の日に、昨年竣工成った由布院町公民館内らっくホールで、松本富有樹ギター・リサイタルが開催されました。
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だれじゃ、それは、とお思いでしょうけど、湯布院町民、ってか、旧ゆふいん音楽祭関係者には言わずと知れた「松本先生んとことのギター少年」でありまする。由布岳の麓、今世紀に入ってからの音楽祭では小林道夫チェンバロ・リサイタルの定番会場となっていたアルテジオに登っていく途中にある歯医者さんちの富有樹くんは、小さい頃から音楽が好きで、お父さんに連れられて音楽祭の会場回りをウロウロしており、高校生になるや音楽祭の実行委員に参加、チラシ撒いたり公民館の演奏会の立込の手伝いをしたりしてた。いつの間にやらギターを弾くようになり、森ひとつ隔てたご近所の小林先生のところで音楽をみてもらったり。あるときからは音楽祭からは姿を消して、どうしたのかと思ったら、どうやら本気でギターを勉強することになったそうでヨーロッパに渡ったという。なんのかんのなんのかんの、レギュラーの夏の音楽祭が終わった後、折に触れて何度か開催された復活「ゆふいん音楽祭」のひとつに、ヨーロッパで知り合った古楽系の仲間を引き連れて参加、駅前で無料演奏をしたり、へえええ立派になったねぇ、とみんな喜んでた。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2018-07-28

そんな松本ギター少年、いや、今や立派な若き古楽系ギターのプロフェッショナルとなった松本青年が、ようやく誕生した由布院町の新たなまともな響きの会場に凱旋、地元での初リサイタルとなったわけでありまする。マンボウが解除された温泉県とはいえ未だ一席空け使用に、満員の聴衆が詰めかけたのは当然のことでありましょうぞ。

演奏会は、前半は古典派時代のギターと、バロック時代の古いギターを用いた独奏。正直、バロック楽器はこの会場で大丈夫なんだろうかとちょっと心配だったんですけど、なんとなんと、このゆふいんラックホールなる今時の公民館併設ホール、一昔前の「室内楽専用ホール」とも遜色ない(とはいえ、80年代後半永田音響型の残響些か強すぎ系ではない)空間、人口1万人の町相当の小規模総合施設とはいえきちんと遮音もされほぼ完璧な静寂が作れるアコースティック音楽用の施設ですから、物理的には小さめな音でも少し座っていればやがて耳が勝手に繊細な響きも拾うようになり、そんな作業の邪魔になる騒音は完全にシャットアウトされてる。なんでそんな当たり前なこと言ってるのか、と不思議がるでしょーがぁ、なにせご存じの方はよーくご存じのように、先月から解体作業が始まった向かいの懐かしい旧公民館ったら、遮音なんて夢のまた夢。向こうの小学校から太鼓の練習は聞こえるは、空調入れれば轟音がするわ、って世界だった。おおおお、こんなほんまもんの音楽ホールがこの盆地の田舎町に出来、そこで育った若者がこんなに微妙で繊細な響きを奏でるのをしっかり受け止め、座っている善男善女の耳まできちんと届けてくれている。もう、音楽祭古参のじじばば共は、涙が出そうでありまするよ。

正直、数週間前に福岡の湘南、今や由布院を凌ごうという勢いの盛り上がりの観光地たる糸島のコンサートスペースでも松本青年はバロック・ギターを披露してくれたんだけど、小さな空間ながらやはりこのヴァージナル規模の音量の楽器の真価を万人に伝えるのはちょっと厳しいかなぁ、と思わざるを得なかった。空間的には圧倒的に大きな会場ながら、なんの問題もなく聴けんだから、こりゃもう驚きと言っても過言ではないであろーぞ。

で、後半は、音楽的には「近くに住んでるおじいちゃん」小林道夫先生が登場。昨年のホールオープニング以来の懐かしい公民館ピアノを使い、ギターとの二重奏です。スイマセン、今回は主催が「ゆふいん音楽祭」ではなく松本氏個人、松本氏のFacebook写真からいただきましたが、クレジットが判らなくてスイマセン。
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フンメルの《ドン・ジョヴァンニ》なんぞが登場するポリプ作品と、なんとなんとロドリーゴ《ある貴紳のための幻想曲》をピアノで、という意欲的なラインアップ。前半にはバロック楽器を用いてロドリーゴが協奏曲に用いたサンス作品を聴かせる、というなかなか凝った趣向で、ギターという楽器の時代を超えた響きを網羅したわけです。

昨年暮れの上野の《ゴルドベルク変奏曲》キャンセル後、恐らくは初の復帰舞台となった道夫先生ですが、あくまでも主役は孫ほども歳が離れた若者で、ある意味で繊細すぎる響きの楽器をしっかり立てて、ピアノがギターを圧倒することは絶対にない精妙さ。文字通りの好々爺っぷりでありました。

本日の演奏会、我らが音楽祭の孫の凱旋というだけではなく、このゆふいんらっくホールという新しい空間がどういう可能性があり得るか、いろいろ考えることも多かったです。音楽祭の真の意味での世代交代も、やっと少しは見えてきたかなぁ、とも思わんでもなくもないし。ホールそのものも、大友宗麟後の隠れキリシタンという土地柄といい、古い時代の音楽再現には格好の場所とされる可能性はあるなぁ。なんせ、意外といっては失礼ながら、古楽の伝統が半世紀以上の長きに渡りしっかり存在している九州北部地域ですから。

なお、道夫先生登場予定の「ゆふいん音楽祭2022」に関しましては、数日中に当無責任電子壁新聞でも珍しくも責任を持ってきちんと発表いたします。乞うご期待。

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