SSブログ

作曲者の私オペラ(?)初演へ [現代音楽]

先程、新日本フィルの本拠地たるすみだトリフォニーの小ホールで、来年1月定期演奏会で世界初演される井上道義作曲ミュージカル・オペラ《降福からの道》制作記者会見がありました。
https://www.njp.or.jp/concerts/23152

この作品、まあ井上道義という指揮者さんに関心ある方ならなんとなくご存じだったであろうこの音楽家の個人的な背景を巡る劇的に過ぎる話を、フィクションとしてオペラの形で世に出すもの。ご本人曰く、「オペラですけど、歌手がPAを使うのでミュージカル・オペラという言い方にしている」とのことです。

長さにして2時間を越える本格的な規模の作品で、上演の仕方としてはNJP本拠地のトリフォニーホールでは所謂「コンサートオペラ形式」。今回は定期演奏会の一部なれど、NJPはピットに入り、実質上完全なるオペラとしての上演とのことです。で、サントリー定期の方は「Pブロックもう売っちゃってるから」ステージ形式には出来ず、所謂演奏会形式で衣装は着け、簡単な光演出での上演となるとのことです。同じ値段だから、どう考えても錦糸町の方が格安でんなぁ。

内容は、一言で言えば「井上道義の父に対する複雑な気持ちを、作品とすることで許しへと昇華する」という極めて個人的なもの。なんせ、わしら同業者はみんななんのかんのミッチーさんと話をするにあれこれ断片的は話は聞かされていた「僕、オペラ作ってるんだけどね…」ってのが、ようやく完成してステージに顕れた、って感じ。作品そのものは金沢時代にほぼ完成していたけど、NJP50年記念の年に第2代音楽監督へのトリビュートとして上演に漕ぎ着けたわけでありますね。もうスコアは出来ていて、ほれ
DSC_4342.jpg
ガッツリ紙として存在しております。

配布されたあらすじに拠れば、主人公は画家の太郎という姿になっております。1幕は太郎がアトリエで作業をしていると自分が過去の描いた両親の肖像画から幻想の両親が出現、2幕の太郎誕生前の第2次大戦下マニラに舞台が移る。日本人ながら米国生まれで本土での居場所がなく左遷のようにマニラにいた父正義は、己のアイデンティティに悩みつつ現地のメイドなんぞと奔放な生活をしている。日本から呼び寄せられた妻みち子は、それを見守る様な生活をしていた。そこに米軍が上陸してきて、家は艦砲射撃で崩壊。ダンサーの米兵に助けられたみち子は捉えられ、米兵とダンスを踊る。第3幕はアトリエに戻り、太郎の両親の幻想との様々な対話が成され、自らの出生の秘密も明かされ(るのかな?)、太郎は許しに至り、賛美歌461を皆で歌う。これ。
https://www.youtube.com/watch?v=xJ0cJ5DQeIs

…というもの。あくまでも本日配布されたあらすじからの内容抜萃ですから、幻想との対話中心の3幕など、もっと舞台として複雑だと思います。

本日舞台に登場した主要キャストがそれぞれ重要なアリアをピアノ伴奏で披露してくださいましたので、いずれ近い将来にNJPから出るであろう公式記者会見動画でそれらを聴けるんじゃないかしら。音楽的には、ご本人が仰るに「バーンスタインの《ミサ曲》みたいなシアターピース」とのことで、ま、お判りの方はだいたい想像はつくでありましょうぞ。中身はどちらかというと《A Quiet Place》ですけどね。

井上道義氏が指揮者であるということを横に置けば、作曲家が自分の両親との関係をそのまま舞台に上げてしまった昨今の作品としては、シュトックハウゼンの《光の木曜日》を誰もが思い出すでありましょう。ですがこの作品、道義氏自身の芸術家としてのあり方や歩みを語る自伝というよりも、己のルーツそのものへの疑問をオペラという形にしてしまったもの。本人曰く、「上演のことなどなんにも考えずに作曲した」とのことで、正にそうじゃなきゃ書けない内容ですね。

なんだか隔靴掻痒な言い方になっていますが、ぶっちゃけ、主人公太郎は父正義の実の子ではなく、母みち子の米国人ダンサーとの不倫の子供で、父はそのことを太郎に秘密にして世を去った。その父と、己への許しの物語、ということ。じゃ、母みち子は…と思うけど、その部分はあらすじでは語られておりません。

想像以上に重く、象徴性と具体性が複雑に重なり合った舞台になりそうで、これがどのように処理され、形になるか、まだまだ判りません。道義氏はホントは指揮はしないで演出に徹したかったそうですが、オケ側からそれは困るといわれたそうな。作曲家井上道義氏とすれば、一回限りのイベント上演ではなく、作品として世に遺すことを望んでいらっしゃるようでありました。

とにもかくにも、1月を待て!

[追記]

その後、ドロドロ縄縄とあちこち勉強したら、どうやら井上道義氏はこの数年、要はこのオペラ作品を舞台上演する計画が本格的になった頃から、ご自身の出生を巡る話はどんどん自分で喋っていらっしゃるようですね。ネット検索で「井上正義 道義」と調べると、いくつものインタビュー記事が出てきます。

それらをあらためて眺めて本日記者会見で配布された資料を見るに、この作品の第2幕の出来事は、「父と母が戦時中にマニラにいて、マニラ時代のあとに自分が生まれた」という史実以外は、基本的にフィクションのようです。いろいろと時系列がぐちゃぐちゃになってないか、と思いながらあらすじに目を通していたんだけど、そういう風に捉えるものではない。

なかなか一筋縄ではいかんなぁ、この作品。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。