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『月島物語ふたたび』巡れど [新佃嶋界隈]

昨晩、どうにかこうにか「ローエングリン」曲解初稿を入れ、ディーリアス浴ば浸るべく慌てて晴海トリトンまでチャリチャリ向かったわけだが、佃を跨いで明石町から晴海に向かう巨大橋の下をくぐり、佃3丁目側から月島2丁目の八重桜の横へと抜けたら、なんとなんと、あの月島2丁目の象徴たる、立派なお風呂屋さんが解体工事を始めてるじゃあないの。なんてこった。本日午後の姿。

春ともなれば、この人工島で一番派手に花びらを撒き散らし、そこいら中をピンク色に染め上げてくれる巨大な桜の木をにょっきりと生やしたお風呂屋さん。昨年春の勇姿を見よ。
http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/archive/20060401
通常温度が43度くらいで、滅茶苦茶熱くて、とてもじゃないが軟弱な小生なんぞには浸ってられない。でも支持者は多いようで、うちの大家さんなんて、内湯があるのに、わざわざ毎日ここまでいらしてた、知る人ぞ知る名湯。検索すると、銭湯マニアの方がしっかり写真でレポートしてますね。ほれ。http://www5e.biglobe.ne.jp/~wadyfarm/chuou11a.html

かの名著『月島物語』の舞台となった路地から直ぐ。最近ではすっかり観光地としての佃月島路地歩きでも重要なポイントだった、それはそれは立派な銭湯でありました。

向かいの東仲通りを挟んだ長屋が数ヶ月前に取り壊され、100円パーキングになった。このところのプチバブル再燃で、我が路地にも毎日数通は「お宅を売りませんか」という大手不動産会社の投げ込みが入る今日この頃。高層マンション林立ですっかりシカゴばりのウィンディ・シティになってる佃なんぞよりも、よほど元祖東京湾人工島の路地裏が残った月島2丁目近辺、それもいよいよ風前の灯火なのであろーか。

なぁんて思いつつ、考えてみたら東京に戻ってから本屋さんに行ってないなぁ、と開演時間を気にしながらトリトンのそこそこまともな品揃えの本屋を覗く。と、『月島物語ふたたび』という分厚いペーパーバック装丁の本が積み上がってるぞ。へえ、かの『月島物語』にちょっと補遺を付け、大判にして再販したものね。http://www.kousakusha.co.jp/BOOK/ISBN978-4-87502-399-9.html

とはいえ、ここでは買いません。こういうものこそ、月島西仲通りの本屋さんで買うべきでしょう。焼鳥屋の隣の隣、親爺さんが「バルトークは難しいからな」などと宣う、伝統的な町の知識人としての本屋のオッサンをやってくれている店。んで、本日昼、チャリチャリと眺めに行ったら、案の定。

「これ、文庫本はずっと絶版だったのよ。この出版社が権利を買い取って、こんなに立派にしてまた出したんだな。そう、2丁目の方に住んでたんでしょ、この著者。え、あそこの銭湯、取り壊してるの。そういえば、ご主人が亡くなったけど跡継ぎがいない、って言ってたなぁ。やめちゃったのか。あの辺、風呂屋なくなっちゃうじゃない。あんたんとこの元佃にはあるけどねぇ。」

元佃、なんて地名がサラッと出るのは、さすが元祖地元民であることよ。目指せローカルベストセラー!っても、漫画が積み上がった狭い狭いカウンターに、どういうわけか1冊置かれていたものは小生が持ってきちゃったんだけど。

というわけで、これが異常に暖かい如月初日、取り壊されつつある月島2丁目の銭湯。地上げやらマンションへの建て替えじゃなく、逝ける主人と共にこの人工島を去るのならば、それはそれで仕方あるまい。ムーンアイランドタワーよりも遙かに低い煙突の向こうに晴海トリトン、そして左手隅、朝潮運河の向こうに建設中なのは、今をときめく豊洲のマンション群。

工事の皆々様、せめて、桜の大木、あと2ヶ月ほど切らずにおられぬものか。この異常な暖かさなら、あと3週間とない旧正月の春にも狂い咲いてくれようものを。

如月の 春の陽気に 花を待ち


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