SSブログ

「ドン・ジョヴァンニ」序曲付いてます [演奏家]

東京湾岸ならばなんとか冬と合格点を出せそうな冷たい晴れた空の下、朝もはよからチャリチャリと錦糸町まで行ってきました。物議を醸す、という表現も可能なくらいの賛否両論を東京のディープな音楽ファンらに巻き起こしてる、新日本フィルを指揮するブリュッヘンの公開練習があったです。

平日の朝からすみだトリフォニーに集まるなんて、ワイのワイの盛り上がってる勤労者層音楽ファンには無理な話で、客席を埋めたのはいつもながらの地元ホール支援者とNJP支援会員、殆どがご隠居でありますな。業界関係者もチラホラ…ともいえない。ある意味、誠に健全な姿でありまする。

さても、このオープンリハーサル、所謂ショーアップされた公開GPだったり、実質上は定期演奏会と同じ内容を地域の方や支援者に無料提供する公開練習ではありません。ホントの練習です。これ、いつものこと。おっと、ここまで見せて良いの、と思うようなことも見せちゃうこともある。大ホールだけどマイクもなく、客席に向かってどうこう説明するも無く(アルミンク監督やら小澤氏の場合には、最後にちょっと解説することもあるけど)、指揮者の発言なんぞ聞きたかったらかぶりつきに近付かねばならない。でも、かぶりつきには入れない。ま、「聴衆に練習を見せ教育するぞ」という勢いのイベントではありません。

で、普段は後ろの方で全体の音を聴くようにするんだけど、今日ばかりは前の方に行きましたね。なんせ、オケマンが「声が小さくて練習でもよく聞こえない」と洩らしてたもんで。

細かいことを言い出せばキリがないし、なんせそういう状況だから細かいことは判らないんだけど、ま、公開リハーサルだったわけだから、内容を書いても良いんでしょうね。以下、テープで録音したのでもなければ、かぶりつきで一字一句記したのでもない、平戸間真ん中より前の上手側から、小さい声での指揮者の発言を必死に聴き取ったものなので、その程度の精度と思ってください。決して「やくぺん先生によれば、ブリュッヘンはこう語った」などと言いふらしたりしないように。商売でやってるある程度以上の精度の文章じゃあないんですから!

さて、最初にベートーヴェンの第1交響曲を頭からやったです。基本的には音楽の変わり目毎に細かく指示を出していく、真っ当な練習です。とはいえやっぱりブリュッヘン御大、第2楽章の練習番号Bの辺り、ティンパニーと「短い音符が聞こえてないよ」というやり取りをした辺りで、短い演説が始まりました。練習は英語だったんだけど、この演説だけはドイツ語だった。
スラーがかかったドットの処理の仕方が話のきっかけだったみたい。ベートーヴェンの音符の上に書かれたドットやらアクセントやらをどう捉えるべきか、という内容です。ブリュッヘン氏曰く、「この3種類は、ベートーヴェンにおいてはさほどの違いはない。ベートーヴェンの頃には銅版による楽譜出版が始まっていて、銅版を起こす職人が付点をいい加減に処理したり落としたりしちゃうので、ベートーヴェンは間違われないようにハッキリ記すためにいろいろな書き方をしているのである」とのこと。長さに関しては、その場その場で判断せねばならないそうな。
ちなみにモーツァルトの場合には、これら異なった記号には音量などの違いが対応するそうです。

以上、読んでらっしゃる楽員さんがいて、おいおいそーじゃねーぞー、なんてことがあったら、私信なりコメントなりで入れてくださいな。よろしく。

練習後、別の用事で立ち話をした首席チェロにしてエルデーディQの花崎薫さんによれば、あのような修辞学的な話は普段の練習ではあまりないそうです。「でも、ボッセさんなんかとは、言ってることが違うんだよね」(皮肉な口調ではありませんから、誤解なきよう)。ま、いろいろ難しいもんだ。
花崎さんとの短い会話では、「プロメテウスの創造物」でのチェロ独奏に対する指示についてなど、面白い話もあったけど、公開を前提に喋られたことではないので、書くわけにはいきません。5月にはエルデーディQとしてSQWでシューマン全3曲を弾く花崎さん曰く、「ブリュッヘンさんとシューマンをやったのは、音楽の捉え方などの面で、シューマンのクァルテット全曲演奏に向けてもとっても勉強になりましたね」。乞うご期待。

なんにせよ、ブリュッヘンという方は、自分の中にはオリジナルの譜面で研究したり、様々な時代による修辞学的な常識が溢れるほど詰まってる。だから逆に、現場で指示を出すときには目の前にある楽譜なんぞあるものでいいのだ、という考えだそうな。で、本番となるとまた違ってきて、同じ曲でも今回のように何回か本番があると、前とは次では本番での指示が違ったりするそうです。じょーだんじゃなく、フルトヴェングラーじゃなぁ。

後半の練習、いきなりどっかーん、とニ短調が鳴って、「ドン・ジョヴァンニ」序曲が始まった。あれれれれ、と思ったら、明日の節分の日の名曲定期でのアンコールだそうな。これはもう、ボウイングの指示やらアーティキュレーションやら、各部分部分をオペラの登場人物に摸したような細かい表現で、楽譜の指示なんかよりも大事なのはそっち、というような音楽でした。練習は見られなかったけど、ハイドンは一転、とってもユーモラスな音楽造りだそうです。

さてもねぇ、こうなると皆さん、聴きたいでしょうねぇ。だけど、この新日本フィルの名曲定期、もうずーっとシリーズで売り切れで、招待券も一枚も出せない状況だそうな。評論家先生たちにも、来てもらっても立ち見で入れられるかすら判らない、と謝ってるそうです。切符持ってる方、最後に「ドン・ジョヴァンニ」序曲ありますから、ベートートーヴェンが終わっても直ぐに帰らないよーに。


nice!(0)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽