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北千住の若者たちに注目せよ [音楽業界]

東京藝術大学音楽環境創造科学部学生さんたちの、卒論発表会を見物してきました。こちらで宣伝したイベント。http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/archive/20070206

そもそも「藝大音楽環境創造科」なんて言われても、そんなものがあることをご存じの方が業界内にだってそれほどはおらんじゃろに。北千住キャンパスも殆ど知られてないだろうし。こういうとこ。
http://www.geidai.ac.jp/labs/mce/
せっかくだから、昨年暮れのオープンハウスのときの正面写真。これじゃなんだか判らんなぁ。

ホームページによれば、こんなことをするとこです。
「教育内容としては、1)コンピュータ、録音技術などテクノロジーを活用した音楽・音響表現 2)舞踊、パフォーマンス、民族・古典芸能など身体表現の研究 3)映像表現、演劇、舞台制作・脚本・演出の研究 4)芸術文化政策、アートマネジメント、音楽環境デザイン、音楽文化論など、音楽環境・文化環境の研究、そして、5)それらを支える音楽理論やコミュニケーション技術 の5つの系列を横断的に学ぶことによって、芸術やそれを取り巻く環境を総合的に学習することを基本とします。」

なにしろ、昨年度に初めて卒業生が出たばかりで、今年でやっと2期生。キャンパスは去る秋からで、その前は板東太郎の流れの畔、取手キャンパスに同居していました。学生は学部生が80名ほど、大学院生が15名程度というから、まあ、ちいさな学科ですな。

たかだが20名ほどしかいない学部の卒業生も、上記のso-upという今回のイベントの中身を見て貰ってもお判りのように、中身はバラバラ。所謂メディアアートやらジャンル横断的な創作を実践している奴(世間が「げーだいの学生」と信じているアーティストの卵)、音楽音響創造なる音響や録音技術についてやってる奴(録音技師養成、ではないんだろうけど)、それに所謂アートマネージメント系をやってる奴の3タイプくらいがいるみたい。

小生が直接なんのかんの喧嘩をふっかけられる相手は、最後のグループ、公式ホームページで謳ってる内容なら4と5の生徒さんたちでありますな。そんなアートマネージメント系の卒業生さんらは、特に見せるパーフォーマンスや作品なんぞないんで、地味に研究発表をするしかない。で、本日は4人の卒業生の発表がありました。うちひとりは録音音響系の方だから、アートマネージメント系の学生さんは3人です。

発表後の質疑応答で最低限の意見は本人らに言ってきたので、ここで今更具体的にどうのこうの言い立てることもないわけですが、日本全国納税者諸氏にも関わりがなくはない国立大学(今は独立なにやら…と面倒臭い名前だけど、よーするに我々の税金でやってる大学にはかわりない)なので、一般的な感想を記しておきますとぉ…

●みんな、プレゼンテーションにパソコンを使うのは達者ですねぇ。パワーポイントとか、まるで当たり前の表現道具で使っている。いやはや、スゴイもんだですな。←携帯電話のキーボードが打てないオッサンにこんなこと言われても、なんにも嬉しくなかろーが

●プレゼンテーションとしては、これから発表することが「調査研究の結果」なのか、それとも「自分がたてた仮構の思考装置やら仮説なのか」を、もうちょっと明快にしながら議論していかないと、ギャラリーは混乱します。「調査のための仮説」、「調査結果」、「自分の意見」の区別は常に明快にして発表しましょー。←わしゃ担当教官かぁああ

●どーでも良いことですが、研究発表会は聴衆がせめてコーヒーやらを持ち込んで飲めるような環境でやってくださいな。ひとりあたまの時間は短いからまだいいようなものの、やっぱり4本まとめて聞くとシンドイ。プレゼンテーション用のでっかいスクリーンを使いたかったのであのスタジオAというところでやったんでしょうけど、普通の教室でやってくれた方がギャラリーには有難いです。←これはアンケートに書くことだなぁ

って、マヌケな意見はそれくらい。以下はちょっと本気の感想。本日一生懸命に卒論を発表なさった学生さんたちに対する批判ではありません。そこはご理解あれ。

ええ、全体の発表を聞いての感想は、「音楽環境創造科という学際的な学部は、大学院大学として存在させた方が良いんじゃないかなぁ」に尽きます。
つまり、ここで学部学生さんたちが一生懸命議論したようなことは、やっぱり、社会学とか、経済学とか、ある種の専門性を持った学問を修め、考え方や学問のやり方の基礎や背景を最低限身に付けた上で展開しないことにはしんどいんじゃなかろーか、ということ。(考えてみれば、小生がこれまで付き合ってきたアートマネージメント関係の学生というのは、どれも大学院生以上だった。アートマネージメントをやってる学部学生は知らなかった。だから、学部での議論の水準がどれくらいなのかまるで見当がついていなかった、というのも問題だろーけど。)

例えば、テレビ報道の影響力を論じてくれた今風の青年がおりました。彼の議論は思いっきりデカいテーマで、ある種の社会学の方法論や議論の積み上げを前提にしないと、「学問」とするのが凄く難しいタイプのものでした。ああいう大風呂敷広げちゃうのは、やくぺん先生は大好きだし、若いもんはあれくらいの無茶を言わにゃーいけん。うん。
でも、ヘタすると、巨大匿名掲示板のメディアへの悪口と変わらない内容になりかねない。
ま、正直、根っ子は同じでもいいんだけど、それを「学問」としての普遍的な言説にでっち上げるには、基礎的なテクニックがある。それを学ぶのが大学でやるべきことなんじゃないかしら。学者というのは「学問的な議論をするテクニックを持ったプロの職人」なんだから。「そのレベルの議論は大学院でいい」というのならば、ますます音楽文化創造科は大学院大学に限定すべきでしょうし。

藝大で演奏を習ってる連中がプロの音楽職人であるのと同じように、プロの卵になって欲しいなぁ。直ぐにホールや劇場の現場で働ける人材を養成する専門学校じゃあない、やっぱり学者養成所なんだからね。日本でフランスみたいなアートアドミニストレーティング専門の官僚や役人育成をするなら、藝大じゃなくて、超高級専門学校たる東大の仕事だろうし。

そもそも、18歳くらいの段階で、「わたしはアートマネージメントを学問として学ぼう」なんて積極的なモーティヴェーションを持てる奴が、日本語文化圏に20人もいるなんて、とても想像でない。やっぱり学部の4年間をいろいろ研究なり勉強なりで過ごす中で、「アートマネージメントというものを学問として考えてみよう」と思える奴がやっと数人出るくらいなんじゃないかしら。私はチェロを弾きたい、油絵を描きたい、なんてのとはまるっきり違うわけだもの。

なんにせよ、せっかく壮大な構想で生まれた音楽環境創造科、音楽業界の皆々様、暖かい眼差しと、滅茶苦茶厳しい視線を同時にグサグサ投げつつ、この先を期待しましょうぞ。こういうところで議論を重ねた若者が、トーキョーワンダーサイトなんぞの未来を担うわけですからね。明日明後日も同じ発表がありますので、お暇な方は北千住までどうぞ。


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