SSブログ

サーカスの風景 [音楽業界]

仕事関係の某放送局(バレバレ)からのご招待で、サーカスのGPを見物したです。内部撮影禁止だったので、外の風景。日没過ぎの午後5時半開演という不可解な時間設定は、GPだからかしら。

まあ、この壁新聞に宣伝を書いてくれ、という意図ではないだろうし(地下鉄中吊り広告やら自前メディア総動員の大宣伝をやってるロングラン商業イベント)、あたしにサーカス観せてどーなるのよ、でも実券送りつけられちゃってるしなぁ、と、まるで出席簿をチェックされるから行かないと拙い学生気分で、遙々内陸はNHKホールの足下の仮設テントまで出かけたわけです。サーカスよりも、秋にそちらが招聘するチューリッヒ歌劇場の「薔薇の騎士」見物させて下さい、とは言えないしね。

さても、GPというから関係者の内覧会程度のものかと思ってたら、よーするに本番初日前の公開リハーサルというか、実質上本番でありました。関係者はいっぱいいたけど、殆どが普通のお客さんみたい。仮設テントとはいえ千人規模で入るだろうから(今は亡き、かのディズニーランド裏の第一生命ホール、じゃなく、「東京ベイNKホール」みたいな感じの空間。当私設壁新聞読者層なら、某民間事務所がブーレーズの「レポン」やったみたいな場所、と言えば判るかしら)、ガラガラだろうと思ったら、スポンサー企業の招待があったんでしょうねぇ。

会場で面白かったのは、「モントリオール4泊6日の旅ご招待」というアンケートが、なんとコンピューター入力になってたこと。グッヅ売り場の横にパソコンが半ダースほど並んでて、そこにアンケートを入力するんです。これ、処理能力がとても足りないと思うんだけど、他の場所にもあったのかしら。動員数が百万単位のイベントの場合、アンケートのデータ処理を考えただけでも相当の手間と出費になるだろうから、賢いやり方ですね。小生など無縁の巨大イベントでは、こういうやり方が当たり前になってるのかしら。うううん、異業種を見物するのは勉強になるなぁ。

中身に関しましては、よーするに玉乗り、火縄くぐり、ジャグリング、空中ブランコ、トランポリン、集団縄跳び、はたまたピエロ、と伝統的というか、古典的というか、スタンダードな「ほおおお人間の肉体ってこんなことまでできるんだぁ、すっげー」系エンターテインメントを今っぽいパッケージにして並べる。その間に、ロープを用いた三次元バレエとか、テクノロジーと肉体のギリギリを狙った今風の出し物も配されます。なんのかんので2時間半ほどの娯楽パーフォーマンス。見てくれは限りなく京劇風、10日ほども早いけど祝旧正月!という感じ。蛇足ながら、セクシャルなコノテーションはほぼ皆無な健全さなので、おこちゃま連れでも大丈夫です。

いやぁ、勉強になりましたね。ええ、小生なんぞはオペラの解説などで極めて気楽に「オペラとは現存する芸術の全てを取り込んだ総合パーフォーマンスである」なんてしたり顔で書いてるわけですよ。でも、考えてみたら、これまで「スペクタクル」みたいな側面は殆どイメージできてなかった。
ルイ14世の宮廷バレエやオペラなんぞを頂点に、花火やら騎馬隊やらまで動員するスペクタクルとしてのオペラ(英国流なら「マスク」ですな)というものがあることは頭では理解してるし、21世紀の古楽復興が浪漫派では大した仕事をしてないフランスがバッハ以前の音楽を探していったら宮廷スペクタクルだった、で、バロック系の人は盛んに宮廷舞踏など習ってる、なんてことも理屈は知ってはいるけど、「スペクタクル」というものを実際に経験することは殆どない(ヴェローナなんぞ、近くまで行っても見物しようという気にもならんですから)。昨年、オーチャードホールでやったシャトレ座のラモーだかも、実際は現代の創作で、当時のスペクタクルの再現ではないわけですしねぇ。

そんな意味で、現在の我々が接することが出来る興行なり見せ物で、最もそんな「スペクタクル」に近いものって、そおおかぁ、サーカスなんだなぁ、と思わせてくれたですよ。小難しい現代オペラなんぞでも、ホントは音楽じゃなくて「スペクタクル」の要素で強引に見物させちゃってるだけの舞台は多いよなぁ、なんて思ったり。え、T.D先生、なんて申しておりませんよっ!
実際、今日から初日のこのサーカスでは、サイトウキネンで最初に出て、今はパリオペラ座のレパートリーになってて、来年だかには小澤氏の棒でメトが買うことになってる「ファウストのごう罰」のプロダクションで我々がビックリしたあのケベック・シティ拠点の水平面よじ登りパーフォーマンス集団のタイプの壁面上下行が、重要なモチーフとしてあちこちで用いられていました(サーカスというパーフォーマンスの永遠の課題は「人体による重力へのあくなき挑戦」ですもんね)。世界中のサーカスの要素を素材として取り込むこのサーカス団、本拠地がモントリオールだそうなので、当然、繋がりはあるんでしょう。

残念ながら、小生のような商売の人間とすれば、マイクを通した巨大音響でがなりたてられる歌と、ヴァイオリンやらクラリネットやらが入っているけど全てスピーカーのハウリング音色になっちゃうライブバンドの響きに、2時間半耐えるのがしんどかったのは事実。まさかブーレーズ指揮パリ管による馬のサーカス、とは言わぬも…百万単位の動員が必要な興行とすれば、音楽はこういうものじゃあなきゃならんのですかねぇ。
それこそ今をときめくミンコフスキ指揮ルーブル宮音楽隊なんぞが入るなり、モントリオールなら隣のトロントからターフェルムジークを連れて来るなり、そんなものでやれないのかしら。フランス宮廷音楽って、判りやすさとノリの良さでは「のだめ」のベト7どころじゃない、何の素養がない聴衆でも全く抵抗なく受け入れられるものなんだから。フランス系古楽マニアが独占するような高尚なもんじゃない、ホントは極めて大衆的なおバカ音楽なんだから、サーカスにはピッタリだと思うんだけどなぁ。

とにもかくにも、「オペラというものの本来の姿を知りたかったら、現代の最先端サーカスは観ておいても損はない」というお話でした。オペラを論じるつもりのある奴なら、チャンスがあったら、他人にチケットあげるよりも、一度くらいは眺めておけ、ということです。
昨日眺めた超高級サーカスのスタッフをスペクタクル要員に用いて、「ラインの黄金」とか「モーセとアロン」とか、眺めてみたいなぁ。バンコック・オペラのリング・チクルスも真っ青だぞっ!


nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽