SSブログ

コロンビア・アーティスト終焉へ [パンデミックな日々]

「音楽業界」以外のなにものでもないネタなんだけど、敢えて「パンデミックな日々」カテゴリーにします。正直、業界ネタとしては無視できない大ネタではあるが、今更特に興味深いことではないので。

世界一の早耳、英語圏で最も知られた「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」業界ブログで有名なSlipped Discさんが、コロンビア・アーティスト(CAMI)廃業へ、というニュースを流しました。こちら。
https://slippedisc.com/2020/08/breaking-biggest-classical-agency-goes-bust/

こういうリリースをまんまペトペト貼り付けてだしてしまう勇気は、このオッサンの偉いところだわなぁ、とちょっと呆れながら、へえええそーなんかい、と時の流れと今回のこのコロナ騒動の異常さを感じざるを得ないでありますなぁ。早速、大物アーティストの引っ張り合いが始まっている、とかも含め。考えてみればこの世界一の早耳業界ブログのオッサン、前世紀の終わり頃に”Who Killed Classical Music?”というベストセラー本を書いて業界で有名になった「英語圏の石井宏」みたいな方なわけで、世界に一報を流すに最も相応しい方ではありますな。

日本の普通の音楽ファンとすれば、別にマネージャーの名前を知る必要などありません。まあ、「ナベプロ」とか、最近では「ジャニーズ」とか「エイヴェックス」とか、はたまた「吉本興業」とか、芸能界を牛耳る悪の差配集団みたいに面白おかしくマネージメント会社やレコード会社のことが語られることはあり、それはそれでまたひとつの娯楽のジャンルを生んでいるようなところもある。正直、どーでもいいといえばホントにどーでも良いことですからねぇ。

それと同じように、「世界のクラシック音楽の堕落、商業化をすすめる諸悪の根源たるコロンビア・アーティスト」という伝説がありました。「CAMIは神なり」なんてギャグも言われてたっけ。70年代くらいからかしら、「精神性のベームvs綺麗なだけのカラヤン」みたいな空気が漂う中、べーてーの世界支配の中でのクラシック音楽商業化、商品化を進める権化はコロンビア・アーティスト社長のオルフォードなのであーる、という論調がありました。そういう論調を積極的に展開して人気を得ていたのは、日本語で活動した音楽系売文業者の中で最も筆力があり、吉田秀和やら遠山一行、野村あらえびすなど名だたる偉い先生より書き手としての力は遙かに高いスーパーライター、その論じている内容はともかく(そこが問題だ、と言われれば返す言葉はありません…)書き手としての力としては同業者としてやくぺん先生が最も尊敬する石井宏氏であったことは、ある世代以上の方はよーくご存じでありましょう。「諸悪の根源安倍晋三」とか、「悪いのはみんな民主党内閣」、みたいなもんですね、ある意味。

石井氏や、氏が中の人となって神楽坂の音楽専門出版社じゃない方の文芸と週刊誌出版の大手S社などで活躍したライターさんなどが広めたこんな神話、その根っこにあるのは書き手の方が某ホールで現場をやっていたときの私憤だという話はきくものの、まあ本人にそんなこと尋ねてもホントのことを言う筈もない。ともかく、筆力破壊力抜群のその筆によって、「音楽をダメにする諸悪の根源コロンビア・アーテイスト」説は、ニッポンの音楽ファンに深く静かに広がっていたわけであります。

やくぺん先生も、そういうものなのかぁ、と思うしか無かったが、その後に実際にコロンビア・アーティストの方々と接することがあり、なるほどねぇ、と思うこと多々でありました。少なくともやくぺん先生が現場を知っているような90年代に入ってからのコロンビア・アーティストって、「オフフォード御大の下に、若くやり手のマネージャーが集まっている巨大なマネージャー置屋」みたいなものなんだな、って。

アーティストのラインナップを眺めれば誰にでも判るように、この会社はそもそもは歌手のマネージャーさんで、そこから広がっていった。で、いちばん手薄だったのが室内楽部門です。このジャンルにはコロンビアが本気で手を出さなかったのは、ある意味、この会社の賢さというか、ちゃんと現実をみているところだったのでしょう。あたくしめの現役時代にこの会社のマネージャーで弦楽四重奏団に手を出したのはひとりしかおらず、20世紀に所属した弦楽四重奏団はセント・ローレンスQのみ(だと思う、少なくとも長続きした団体は)。当無責任私設電子壁新聞が張り出され始めてからも、こういうニュースがあったっけか。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2012-08-14
この契約も1シーズンくらいで終わっちゃったような。

ま、いずれにせよ、20世紀後半のアーティストマネージメントの形が崩れていき、広報会社とブッキング会社に分業化され、演奏家がマネージャーとの契約を辞めてインターネットを使ったインディズ型の個人マネージメントへと移行していく大きな流れの中で、コロナが歴史的な決断を迫ったということなのでしょう。なんせこの半年、会社としての収入がなかったというのだから、アベノミクスで膨大な内部留保をため込んだニッポンの大企業でもなければ、とても耐えられないのは当然ですな。

次は、日本の大手事務所ネタで、こういう「自分のための防備録メモ」を記すことになるのかな。ふううう…

[追記]

8月31日付けで、公式Webサイトにこういうリリースが出ています。いつまであるのやらわかりませんけど。
https://columbia-artists.com/?fbclid=IwAR0deLsemujAROr0lY7JKMndhrgvqdLY7JOSDNEZAzXAzJ5Ppe0ALUGQiEY

英語圏で最も読まれている業界紙の記事はこちら。公式のWebサイトを引っ張って事実関係の確認をしているだけで、分析やら今後の展望などは一切ありません。これもいつまで読めるやら。
http://www.internationalartsmanager.com/news/music/columbia-artists-closes-after-90-years.html?utm_source=wysija&utm_medium=email&utm_campaign=IAM+newsletter+01+September+2020

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。