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16年バンフ組のリユニオン~シンガポール室内楽フェスティバル初日 [弦楽四重奏]

ディレクター氏に拠れば実質上20年ぶり、敢えて言えば第3回目開催となる「シンガポール室内楽音楽祭2024」の公開イベントが、昨晩のヨン・シュ・トウ音楽院ホールでのジョナサン・オン氏がふたつの若い弦楽四重奏団を指導するワークショップで始まりましたです。
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https://www.sgchamberfest.org/academy-series/quartet-demonstration-jon-ong

当電子壁新聞を立ち読みの酔狂な方ならご存じかも知れませんが、ヴェローナQ第1ヴァイオリンを務めるジョナサン・オン氏
http://www.veronaquartet.com/
通称「我らがオンちゃん」はシンガポール出身。前々回のアルカディアQが勝った大阪国際室内楽コンクール&フェスタの弦楽四重奏部門で旧名称ヴァスムスQとして参加し第3位となり、その後のロンドン・ウィグモアホール・コンクールでは第2位
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-03-29
そのまた後のメルボルンでは第3位
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-07-18
ってな調子でじっくりと成長を重ね、翌年のバンフを最後にコンクール時代を終えて「北米のレジデンシィを求めて彷徨う若人」になった。ちなみに彼らが最後にコンクール参加したバンフ大会には、日本ではエク以来の参加を許されたQアルパもいたわけでしてぇ、そー、正にこのアルパの第1ヴァイオリンとチェロが核となって葵トリオとなり、「弦楽四重奏を本気でやってて弦楽器ではないと不可能なレベルの室内アンサンブル」をウリにミュンヘンARDコンクールのピアノ三重奏部門で優勝を果たしたわけですから、なんのことはない、このフェスティバルのメインゲストって、みんなバンフ2016年組とも言えるわけじゃな。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2016-09-03
ちなみに、今となったからハッキリ言うけど「ロルストンQを勝たせるための大会」だったとしか思えぬこの年のバンフ、全く一緒の時期にミュンヘンARDの弦楽四重奏部門をやっており、北米大会VS欧州大会という様相となってしまい、北米にはアルパ、欧州にはアマービレが参加して…という興味深い年だったわけですな。

で、あれから8年、ヴェローナQにとっての最大の転機は2019-20年のシーズンからオハイオ州のオバーリン音楽院のアーティスト・イン・レジデンスのポジションを得たこと。正にコロナ禍が勃発する直前に大学レジデンシィという安定した場所を獲得出来ていたために、コロナ禍でも生活と練習が出来、問題なく活動が継続出来た。オンちゃん自身、この状況はもの凄く幸運だった、と申しております。コロナ禍で北米でのキャリアのスタートが奪われてしまい、現在の中途半端な状況に陥ってしまったアマービレを思うに、正に大学レジデンシィ制度こそが持続可能性が極めて低い「常設弦楽四重奏団」が21世紀に存続可能なほぼ唯一のあり方なんだわなぁ、と遙か地球の反対側を眺めてしまうシンガポールの空なのであったとさ。

ついでに言えば、オンちゃんたちや葵トリオの弦楽器ふたりが参加した些か特殊な回だったバンフの前の回に優勝しているドーヴァーQは、なんだか知らんけど今や英語圏では「若手のトップ」として不思議な程に評価が高く、ヴェローナQや過激派野党系アタッカQなんぞらと共に20年代の北米拠点最若年世代となりつつあるわけじゃが…まあ、もうここから先がどうなるかは、この業界最前線を退いた爺とすれば遠くから微笑ましく眺めているしかないわのぉ、歳は取りたくないもんじゃ…

おっと、爺の昔話になってしもーたわい。こう考えると、やくぺん先生第一線現役時代に眺めて来たいろんな若者達が、いよいよ本格的に中心になって業界が動き始めているわけで、コロナ禍で一度は隠居を宣言した爺にも爺なりに、残された余生に前を向いて現役時代のパワー半分くらいで眺めていかにゃならんもんもまだあるようじゃて。となれば、無節操無分別無謀な覚悟も勇ましく、もっと若い人たちの話をしよーではないかっ!

なんせ昨晩、音楽院学生、受講者、元SSOやらのご隠居奏者、フェスティバル参加演奏家、そしてこの島にも数少ないもののいらっしゃるらしい純粋な室内楽好き等々、60名ほどのギャラリーが一緒に舞台に上がって
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マイクもない距離で眺める中に登場したふたつの団体ってば、ひとつはヨン・シュ・トウ音楽院の学生ら、もうひとつはひとつくらい学年が下くらいのシンガポール芸術学校の高校生(だと思いますが…アジア系は歳が判らず困る!)。前者は世界から奨学金全額給付のエリート国立大学に集まった楽器はよく弾ける若い子達とはいえ、モーツァルト《不協和音》第1楽章という楽譜を前に弦楽四重奏をやったのはたった1週間前から、後者も同じく若い頃のミラノセットからハ長調の第1楽章を所見して2週間だそうであります。

どうもこれには些か意地悪なディレクター氏の秘策があったらしく、「楽器をちゃんと弾ける子達が初めてアンサンブルをやってみて、さあああ大変となったところに、おもむろに先輩のオンちゃんが颯爽と登場し…」って企画だったようです。芸高の子達は、どうもやくぺん先生の前に同じ書き込みがされたタブレットを抱えた女性が座って演奏の様子を食い入るように眺めていたので、学校の先生に指導されてはいたみたい。ヨン・シュ・トウ音楽院の連中はファカリティのタンQ(なのかな、まだ?)にも習わず、全くの手探りだったみたいです。

20年ぶりの室内楽音楽祭の最初に置かれたイベントは、そんな「弾けるけど、アンサンブルとしてはなーんにもない」という状況から「アンサンブル」をどうしていくかを示そうとするものでありました。

で、我らが講師オンちゃんのしたことを一言で纏めてしまえば、「アンサンブルの基礎とは何か?」を示すことだったのであります。

偉い先生の室内楽マスターコースで(恐らくは偉くない先生でもそうなでしょうけど)、最初に言われることといえば、「お互いをよく聴き合いなさい」「お互いのコミュニケーションを取り合って」ってな類いの言葉であることは皆様もよーくご存じでありましょう。で、オンちゃんは、「でも、実際のところ、聴き合うってどういうことなの、コミュニケーションってどうやって取るの?」ってな、基本的過ぎて上級マスタークラスでは誰も言わないことを、具体的にどうすれば良いかを暗示(明示?)してくれた。

ヨン・シュ・トウ音楽院の学生達には「ジェスチャーで示すとはどういうことか」を具体的に見せていく。舞台上にいる人全員に向かって、隣の人と同じジェスチャーで動いてみてくれ、なぁんて巻き込みをやったり。ステージの上では、動きに全ての意味がある、という当たり前過ぎることをあらためてハッキリと教えてくれる。
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高校生たちにはもっと過激で、アイコンタクトとはどういうものかを示す為に4人をウンと遠くに座らせて弾かせたり、更には楽器をおろさせ全てのパートを声を出して歌って、どのようにアンサンブルのやりとりがされているかを体験させる。実際に合唱部の練習かいなぁ、って命令にちゃんと従って、最初はおどおどながらガッツリ歌ってたお嬢さん方、立派じゃわい!

恐らくは、聴衆として座っていた殆ど全ての人は、何らかの形で「アンサンブル」というものに関わっていた経験があったんだろう。そんな人達に向けても、「室内楽フェスティバル」の一番最初に「アンサンブルの基礎とは何か」を思い出させることとなって、会場はマスタークラス見物とは思えぬ盛りあがりを見せたのでありました。

若い世代が講師やメインゲストとなって、もっと若い世代に室内楽を見せていく若い室内楽フェスティバル、始まった。さて、明日以降は…

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