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EIC松花堂弁当 [現代音楽]

水戸は黄門様と後印籠の銅像近く
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わけあり直前割引き1泊簡易朝食付き2600円也の超格安和室ビジネスホテルにおります。先程、アンサンブル・アンテルコンテンポラン(EIC)日本ツアーの水戸公演が、無事に終わったところ。

なんせ、昨日になってやっと演目を真剣に眺めた瞬間、「あああ、これは転換にもの凄く時間がかかって、終演はヘタすりゃ9時半に近くなるぞ」と思った。翌土曜日の夕方には恐怖のコロナ蔓延都市新宿で《ルル》見物するという日程もあるし、午前中にはオフィス引っ越し騒動で税理士さんとのミーティングもあるので、老体に鞭打つのは避けるべきであろー。んで、上野東京文化会館で若きこんにゃく座ピアニスト氏がジェフスキー追悼(とは記してはいないけど、客のほぼみんながそう思ってたでしょ)《不屈の民変奏曲》が始まる前に慌てて小ホール客席から楽天さん検索して最安値の宿を予約。だってさ、「ああ、最終東京駅行き特急に間に合うか、水戸駅までの路線バスに乗れるか、走るのは嫌だなぁ…」なんて思いながらマデルナの曲なんぞ聴いていたくないもんね。心というよりも、体に悪いわ、そんなん。

結果から言えば、終演は9時4分。その後に12人だかの団員さんがお花もって何度も出てきてニコニコするのをしっかり眺めてからでも、東京組の何人もの皆様、水戸駅9時53分だかの最終ひたちだかには間に合ったことでありましょう。今頃は車内でつくばも見えぬ真っ暗な車窓を眺めてらっしゃる皆様も多かろうに。お疲れ様でしたです。

そんなこんなのコロナ禍でもなんだか団員さんみんな楽しそうなEIC日本公演、サントリー公演を全て終えた本日は、こんな演目。
https://www.arttowermito.or.jp/hall/lineup/article_4299.html

URLがなくなっちゃったら判らなくなるんで、自分へのメモとして演目コピペしとくと、こんなん。

★エドガー・ヴァレーズ:〈オクタンドル(8つの花弁をもつ花)〉8つの楽器のための(1923)
★ピエール・ブーレーズ:〈デリーヴ 第1番〉6つの楽器のための(1984)
★三善 晃:〈ノクチュルヌ〉5人の奏者のための(1973)
★フランコ・ドナトーニ:〈ルーメン〉6つの楽器のための(1975)
★エリオット・カーター:〈モザイク〉室内アンサンブルのための(2004)
★マグヌス・リンドべルイ:〈コヨーテ・ブルース〉室内オーケストラのための(1993)
★ヤン・マレシュ:〈アントルラ(網目模様)〉6つの楽器のための(1998)
★ブルーノ・マデルナ:〈セレナータ 第2番〉11の楽器のための(1954)

ほれ、アンサンブル・ノマドやいずみシンフォニエッタなどの演奏会に慣れた皆様なら、この演目一覧を眺めた瞬間に、「これはヘタすると演奏時間と転換時間がほぼ同じになるな」とお思いになり、終演時間を心配なされることでしょうねぇ。なんせ今、コロナでどの会場も終演が伸びるのを極端に嫌がりますから、場合によっては会場に行ったら「リンドベルイを泣く泣くカットします」なんて告知が出てるんじゃ、と悪い予感すらするでしょ。なにしろ水戸芸術館は、県がコロナの緊急事態発令だかになっているので臨時休館中。本日は特別に午後4時以降開けます、という異常事態下なんですから。
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そんな中で、まるでシテ・ド・ラ・ムジークのアンフィシアターくらいの規模の、これらの演目には適正規模な会場で開催された演奏会は、何事もなく無事に終わったわけであります。中身に関しては、なんだか知らないがやたらと世間が盛り上がっていて、東京組もいっぱい会場で顔がみられたので、SNS上あちこちで賞讃激賛感動の声が挙がりまくるでしょうから、あたくしめがどうこう言うつもりはありません。やくぺん先生的にいちばん興味深かったのは、中身よりも(勿論、中身は「アンサンブルのアルディッティQ」みたいなヴィルトゥオーゾ性で大受けなのはお判りの通り)「見せ方」のセンスの良さでしたね。これはもう、ニッポンの類似アンサンブルの皆さんや現代音楽系マネージャーさんやら裏方さんには是非とも見習って欲しい、いや、これはもうセンスの問題としか思えぬから、見習うと言うよりも「すげぇ」と思って精進していただきたい、と敢えて偉そうなことを宣っちゃうよ。

この演奏会、まずステージ上に不思議な形で楽器が配置されてます。で、いきなり、水戸まで遠征してきたピンチャー御大抜きの12人のアンサンブル全員(だったと思うが)が舞台に出てくる。かくておもむろにヴァレーズの超有名曲から始まるんだが(思えばレコード末期にはブーレーズ指揮この団体しかなかったなぁ、この曲って)、ステージ上の演奏している連中にだけ光が当たっている。8分くらいの演奏が終わると、拍手を待たずに、光が別の演奏家のまとまりのところに移り、ブーレーズの妙に耳に優しくドライヴ感すらある音楽になる。んで、また拍手もなく、ある意味で今回のEIC来日公演の隠れた目玉演目たる三善作品が奏でられ、最近は杉山氏の努力もあってかどんどんと認知が進んでるドナトーニの小品。

ここまで、実質、5分から8分くらいの4つの楽章、総計30分弱くらい、丁度ハイドンの四楽章交響曲一曲がまず演奏された、という感じで纏まって演奏されたんですわ。で、ステージ明転、大拍手。演奏家もいちど引っ込み、カーター翁最晩年、やくぺん先生がボストンのシンフォニーホール楽屋でインタビューさせていただき、御大は早く終えてロブスター食いに行きたくてしょーがなかった頃に書いていた最晩年様式の、弦楽四重奏曲第5番と殆ど同じ音楽に聴こえちゃいそうな実質上のハープ小協奏曲へと転換が始まる、という次第。カーターが終わって、前半終了。後半はそれなりに編成が違うので、一曲づつ念入り譜面台や椅子など消毒しながら転換作業、ってもんでした。

いやぁ、なるほどねぇ、こういうやり方があるんね。このやり方、正に「EIC水戸松花堂弁当」とも言うべき、とっても美味しそうに綺麗に盛り付けられ、でもそれぞれの味は移らずにかっちり仕切り分けされてる。メインの海老やら常陸牛煮こごりやらは、それなりのスペースゆったり並べてるし、ってね。

転換そのものの動きや、メンバーが交代に指揮を行うさりげない格好良さ、アンコールに応える姿が醸し出すだらしなさギリギリの楽しそうな感じ、そんな全体が、まるで夏のヨーロッパ田舎の音楽祭での現代音楽アンサンブルのソワレ、って空気を醸し出す水戸の夜でありましたとさ。

ちなみに本日の演奏会、先月のアンサンブル・ノマドによる「前の東京オリンピックの年回顧」の半券を持ってると25%引きになる、という太っ腹さ。無論、水戸市民の皆さんに深く感謝しつつ、ご利用させていただいたでありまする、はい。なんせやくぺん先生の世を忍ぶ人間体、大昔に当時ここを仕切ってたO氏(指揮者さんじゃなくて、オケの偉い人の方)と喧嘩になり水戸芸術館からずっと出入り禁止になってるらしく、招待なんて勿論ありませんので。いやはや…

[追記]

その後、無事に首都圏にお戻りになられた内部事情を良く知る方曰く、「指揮者がいなかったらねぇ」。なるほど、社長がいない遠足のノリだったのね、と大いに納得した次第。

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