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鳥たちの領域 [たびの空]

香港の空を支配しているのは、高層ビルじゃあない。

よーく眺めてごらん。天を目指しあまた林立する垂直線のさらに上に、鳶がひとつ、ふたつ。ゆったりと旋回している。

芸術院の小さな緑には、カケスや鳩、それにTokioやハノイと一緒の雀たち。世界のどことも同じ、禁煙の世に領域を確保出来ぬartsの不良学生たちが、正門の外で雀みたいにたむろして煙草吹かしてるその脇で、同じよーにちーちゃくなってる。

ヴィクトリア湾はドンドン狭くなり、スターフェリーの船着き場はシティホールの遙か先に追いやられてしまった。なにを埋め立ててるのやら、工事現場の上を、超低空まで降下した鳶氏が悠然とかすめ、ゲヴァントハウス管がバレエ化「モツレク」のGPをやってる真っ最中の文化中心の方へと横切っていく。

シティホールと中国人民解放軍ビルの間の工事現場から、ムクドリが自分ちを建設する資材を盗み出し、慌てて飛び立った。赤い軍隊の兵隊たちを気にしてるんじゃない。鳶。ほら、遊園地と湾を見おろす奇妙な軍隊ヘッドクオーターの上空からも、しっかり見おろしてるぞ。

昼飯時の、八角とタイ米の臭い。誰も気づいてないかもしれないけど、この半島と島を支配するのは、赤い資本主義でも、人民解放軍でもない。悠然と舞う小さな猛禽類たちなのさ。

                             ※

香港のJRみたいな通勤列車が終点につくと、車窓左手奥に、ハリボテみたいな高層ビルが突如出現する。特別行政区の一番奥、なーんにもないノンビリした低い山がもっこり盛り上がる向こう、深圳(シャンジェン)は中国本土。

ずるずるとパスポートを出させられ、ぺったんと判子を押され、せいぜいが小名木川くらいの掘割りに毛が生えたような流れの領域境を越え、人民中国の冗談が通じなさそうなお姉様にぺったんと判子を押され、「ほーれすごいぞ資本主義ランド」みたいな付け焼き刃な高層ビルを眺める。で、観光終了。中国本土滞在15分、またぺったん。領域を越えて、またぺったん。日本国民であることをつくづく実感する午後であることよ。

九龍に向かう列車のホームに平行し、国境の掘割りの支流だか本流だかが南シナ海に向け下ってる。流れているかも定かではないノンビリした水面の上を、本土側から鷺が滑っていく。

ぺったんぺんたんのお役人さんたちも、鷺氏にはなにもしません。んで、鷺は本土と経済特別区の間を、いったりきたり、風の向くまま魚の赴くまま。

♪シャンジェン河みずきよくぅ~しずかぁあに流れゆきぃ…


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