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パブリックビューイングが出来ないわけ [音楽業界]

税務が忙しい最中、「東京のオペラの森」ちゅー「の」がやたらと入るけったいな題のイベントの、メインとなるオペラ以外の取材をずっとやってます。本日も、ホルン塚田&フォルテピアノ小倉夫妻によるレクチャーコンサート「ホルンの進化」を見物してまいりました。場所は鯨が泳ぐ国立科学博物館。取材は媒体2つで、ひとつはイベントが全部終わらないうちに入稿せねばならん。ま、そんなこんなで中身について書くことは出来ませんので悪しからず。

舞台となってる上野の山は、暖冬で今日辺りからお花見のビールの臭いが漂うころであろうと想定されていたらしく、すっかり花見体制になってます。でも、桜はまるっきり咲いてません。ちらりほらりの早咲きに、人がわんさとたかってる。

先週の古部氏による「オーボエの歴史」では差し入れに「みはし」のあんみつ抱えてったから、今日はやっぱりトラッドに上野広小路は「うさぎや」のどら焼きでも、とチャリチャリと立ち寄ったら、なんともの凄い列。そりゃ名店だけどねぇ、行列をして何かを買うという作業に限りない恥ずかしさを覚える小生としましては、さっさと見切って、チャリチャリと湯島坂下の「つる瀬」にまわり、この時期の名物「ふく梅」買って、本番前のご夫妻の楽屋になんとか届けましたとさ。あの「ふく梅」って和菓子、上にのってる梅を見るだけで口の中がパブロフの犬状態になるのが困るなぁ。

そういえば、あの坂の上で実相寺監督のお葬式があって数ヶ月。嫌でも梅が咲き、春が来る。

って、暢気してる場合ではない。ええ、この「オペラの森」というイベント、期せずして同じ年に始まった「ラ・フォル・ジュルネ」と比較されることも多いですけど(両方とも一見東京都が絡んでるみたいに見えるところも同じ)、性格はまるで違いますね。
有楽町が「クラシック音楽の舶来スーパーマーケット」で、構造的に薄利多売の不可能な商品を、大量仕入れ・大量宣伝・大量販売で、どこまで廉価で大衆にさばけるかが課題。音楽マーケットそのものを変革しようとする意欲、大いに誉めるべし(正直、小生にはまるで興味ないテーマだけど)。「カルフールのクラシック音楽版」とまでは比喩せぬも、ま、そんな感じ。「コルボのフォーレ」なんて目玉商品がちゃんとあるのは、東雲のイオンにも「百年の孤独」揃えてます、みたい。
一方の「オペラの森」は、「スターを中心に据え世界に売れるプロダクションを一本制作する」という旧来の音楽業界的価値の頂点を極めようとするイベント。古いやり方、といえばそれまでです。当然のことながら、クラシックのライブイベントは多売は出来ませんから、メインのオペラに接することができる人はたかだか6000人弱しかいない(国際フォーラムなら一番デカイ会場の1回公演分でしょ)。それじゃあイベントとして困る。で、上野の山の様々な文化施設を巻き込んだ室内楽やら、レクチャーやら、絵本の読み合わせやら、はたまた落語タンホイザーやら、「オペラの森イベントウィーク」と称してやってるわけです。小生の取材はそこの部分。いつもながら、手間と暇ばかりがかかる地味なとこ拾ってます。

さても、「オペラの森」をイベントとして考えるならば、現代のテクノロジーを以てすれば、ライブのオペラを一気に大衆動員イベントにする方法があるのは誰でもお判りでしょう。そー、所謂「パブリックビューイング」という奴。よーするに、「ライブでやってるオペラ公演や演奏会を、そのままライブで中継し、野外巨大スクリーンなどに投影してみんなに廉価若しくは無料で見物させる」というやり方。これをやれば、一気に大衆動員イベントになり得るわけですよ。
なんせ、今の季節の上野の山に何台かヴィデオを据えて、文化会館でやってるオペラなりオーケストラ公演なりを国立博物館の中庭やら、西洋美術館の表やら、噴水の前の交番のあたりにでかいスクリーン立てるやらすれば、たちまち動員数は十万単位になる。ってか、桜見物の通りすがりの人もすべて「オペラの森」が動員した、とクライアントやスポンサーに向かって胸を張れる(有楽町から東京地下駅に抜ける人を全部参加者と数えちゃう国際フォーラム方式ですね)。すご~いでっかいイベントになるじゃないの。

なーんて妄想を抱きつつ、「どうしてパブリックビューイングしないの」と、このイベントウィーク担当者I氏に尋ねました。ま、ジャーナリストとして当然の質問です。
本来は何かのメディアに発表せねばならぬのでしょうけど、小生がこのイベントについて持ってる媒体は「フェスティバルの構造」について論じることを求めてないので、どちらにも記せない。で、同じ疑問を抱いてる方も多いでしょうから、この電子壁新聞に記します。以下がお答え。

「その話は毎年持ち上がるんです。でも、不可能なんです。理由は、このオペラが海外との共同制作で、映像収録権や放映権がとても複雑になっていること。そのため、パブリックビューイングみたいなことが出来ないんです。私もやりたいんですけどねぇ。(東京のオペラの森関連イベントウィーク担当I氏)」

うううん、なんかいろいろ難しい大人の事情がある、ということですな。
ま、この新演出映像独占収録料があるから制作費や演奏家のギャラが出せているのだろうし、同水準のゼンパーオパーやらリンデンオパーやらメトやらの引っ越し公演に比べ、庶民感覚として高いとはいえ、それでも数万円安いチケット料金に設定出来てるのだろう。そんなことは、オペラのプロデュースについて最低限の知識がある奴ならば誰だって想像がつく。なーるほど、しょーがあんめえなぁ、とは思える説明ではあります。

というわけで、「東京のオペラの森」は、大衆動員という点ではポッカリと真ん中に穴が開いたみたいに上野のお山で開催されております。都響のアンサンブルによる都美術館での室内楽演奏会、あと2回ありますから、上野へどうぞ。今後「タンホイザー」上演史を語る上で不可欠のひとつとなるであろうカーセン新演出は、バスチーユでは12月上旬に出ます。見物なさりたい方はクリスマス買物兼ねてパリへどうぞ。あそこはデカイから、上野よりもチケット入手は楽な筈ですよ。


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