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3年目の日本フィル&落合陽一コラボ [現代音楽]

敢えて「現代音楽」ジャンルにします。

2018年の秋から、年に1度のペースで展開している「落合陽一×日本フィル」の演奏会、コンサートホールでモダンなシンフォニー・オーケストラが今時の若者に影響力あるインフルエンサーさんのメディア・アーティストとコラボする、という今風でおっされな企画。そして、敢えてこのポスター。広報さん曰く、「ポスターは作ってないんです」。うううん、おっされだぁ!
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実態はどうあれ、分裂後に各地の組合が支える今やご隠居世代メンタリティのオーケストラであると思われがちがこの団体が思いっきり異なる世代への聴衆開拓を狙って始めただけあって、会場はコバケンのブラームスやらに大いに盛り上がる聴衆とはまるっきり異なる空気。チケットの値段やら、クラウドファンディングのやり方やら、限りなくポップスなんぞに近いものになっている感もあり。

正直、やくぺん先生の同業者さんらとすれば、この演奏会をどう考えて良いかよーわからん、というのが本音で、まああまり関わらないようにしておこう、って空気が流れているのは事実。やくぺん先生も昨年は2回も行われた演奏会に出かけ、ううううんこれは語りにくいなぁ、と思った次第。《木挽き歌》をフィーチャーしたり、近衛版の《越天楽》やったり、さりげなくいろいろ面白いこともしようとしていたんだけど、あんまりそういう部分が話題になることもなく、別業界では「あの落合さんがオーケストラとコラボ」という視点で褒められたりしているわけでありまする。

かくて今年で3年目となるこの企画、他のどのイベントとも同じくコロナの世界での開催ということになってしまい、この3月以降の世界の流れを見ているに、かえって相応しいやり方になっている可能性もあるだろー。さても、どうなることやら。

なお、終演後の日本フィル広報さんに、今年の内容なら必要があれば商売作文もやれます、と伝えてあるので、ことによるとなんか動きがあるかもしれないから、以下は表の作文が入った場合にもバッティングしないような「昨年の演奏会に座っていた方に、今年はどんなもんだったかちょっとだけお伝えします」というもんです。ホントに関心がある方は、10月24日に以下のサイトでオンライン再配信があります。有料でアーカイヴはない、という「ライヴ」に近いものです。この売り方そのものが、この演奏会がどういうものかを示してるんでしょう。演説も付いてるから、ま、そっちをお読みあれ。
https://eplus.jp/sf/detail/2996680001

で、どんなもんだったか、一言で言えば、「落合さんチーム、3年目ともなったからか、自分らが何をやるのがいちばん良いかはっきり割り切ったな」ってのが感想。ぶっちゃけ、昨晩の池袋はウェストゲートパーク横のコンサートホールで起きていたことは、PC画面上を通して世界のどこからでも眺められるメディア作品のライヴ素材です。正直、会場にいても、ホントに何が起きているのか、メディアアーティストさんと楽屋裏に膨大な数が動員されているというチームが何をしているのか、殆ど判りません。知りたかったら、上のURLで10日後の配信を購入し、眺めるしかない。ってか、そっちが本番。

じゃあ、げーげきのホールに居た奴らはアホか、ということになるのだが、ヘタすりゃそうなりかねない演奏会をかけがえのない一期一会の体験にしてくれたのは、夏の企画発表では「その他」になっていた藤倉大の《Longing from afar》でした。この1曲、10分もかからないこの曲を聴く、というか、経験するだけで、この演奏会はホールで聴く意味があった。この曲だけは、どんなに頑張ろうとPC画面で聴くものはホールで聴くものにはなり得ないし、恐らくは、ホールでの体験には迫れないでしょう。

この藤倉作品、コロナの世界的なロックダウン時に急速に発達した画面分割上でのリモートのテレワーク奏者合奏のための新作であります。それを、作曲者が協力しver.5という楽譜を提供(もう存在していたのかもしれないけど、そこは当日プログラム記述からは判らない、事務局に尋ねれば良いんだろうが、スイマセン)、世界各地からの16人の奏者がリモートで参加、ホールでもステージばかりか「距離を取って」リモートに拡散されたオーケストラとライヴで共演する、というものでありました。これが当日プログラムに挟み込まれたリモート出演者名簿。おおお、知り合いの名前もあるじゃあないのぉ。
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これはもしや、と直ぐに開演前のロビーからハノイに連絡すると、あっという間に返事がありました。今、PCの横に控えてます、って。

リモートの画面の前でオーケストラが鳴り、ホールに配された楽器があちこちから聞こえ、電子音と生音がミックスされ、池袋西口の夜に響き渡る。最後は旋法を拾うみたいな歌が流れ、消えていく。終わったあとには、16分割された画面の中から、世界中の音楽家たちが手を振っている。

少なくとも7ヶ月前には、こんな「音楽作品」が生まれ、ここで披露されるとは誰も思っていなかった。コロナの状況に最も影響を受けなかったのは「現代音楽」ではないんかい、やっぱり。

もの凄い手間と時間とお金をかけてたった7分かい、と言われればそれまでだけど、《誰も寝てはならぬ》や《私のお父さん》よりは倍くらい長いぞ、と敢えて強弁し、この話はオシマイ。関係者の皆様、特に裏方の皆様、お疲れ様でした。

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